第二十六章 ズガ殺しの本星

須佐之男の呼びかけでズガの葬儀が執り行われることになった。
ところがオロチの館から抗議が為され、ズガの葬儀は身内のオロチの館で行うという。リーダー格のフガが葬儀委員長になると言ってきた。
「首を刎ねた張本人が葬儀を執り行うとは言語道断。断ると言ってくれ」と須佐之男がクシに伝えたが、クシは須佐之男を宥めて言った。
「フツシ様。ここは我慢のしどころです」
須佐之男は短気で激昂しやすいが、冷徹な面もある。すぐに気を持ち直してオロチの使いの者に言った。
「胴体はそちらにあるが、首はこちらにある。離ればなれでは死者も浮かばれないで、恨みを持って、この世をさまようかも知れぬ。首はすでに、わしが「オロチの蒲焼杉」のそばに葬った。葬儀をそちらで執り行うのはよいが、胴体も首と一緒に「オロチの蒲焼杉」の傍に葬ってやって欲しいとフガに伝えてくれ。それと、わしもズガの弟であるから、葬儀には出席する」
使いの者はズガを慕っていた家来で、須佐之男も良く知っていたので、須佐之男の意図を十分理解して帰った。
フガもしぶしぶ納得せざるを得なかったが、何か計らいがあるのではと疑い、使いの者に質問した。
「フツシの様子はどうであったか?」
「こちらの要請は尤もだと言われ、葬儀の執り行われる御室山に自分も出席すると言っておられました。その時、末子相続の慣わしに従って、ズガ様亡き後は末子のフツシ様が家督を相続するかどうかの話し合いをしたいと言われておられました」
家来もなかなかの知恵者だ。須佐之男の意図を正確に把握してフガに伝えたら、
「何と!家督をフツシが継ぐと言いおったと。許せん!」と興奮したが、
「いえ、フツシ様は、順当ならズガ様がいなくなられたら、そのすぐ上の兄上のエガ様が継がれるはずだが、体がご不自由なので、資格にはほど遠いフガ様が一番いいのではないかと思う。と言っておられました。その点をはっきりさせるため弟君としてフツシ様も出席してフガ様を応援して差し上げたいとの気持ちからです」
家来の名はナムチと言って、将来、須佐之男の強力な片腕となるのである。
「フツシはそう申しておったか?」と微笑しながらまんざらでもない顔をしてフガは、「了解した。とフツシに伝えてくれ」とナムチに言った。
「ところで、フガ様。ズガ様の首が横田のクシ様の館に放り投げられたと聞きましたが、どなたが、ズガ様の首を刎ねられたのですか?フツシ様は、なかなか度量のある者だ、本来なら、その者が家督を継ぐべきだ。と言っておられました」
一瞬フガの顔が曇った。
「わしだと、言いたいところだが、実はアガだ。あれは完全に気が狂っている。フツシが帰った後、ヤガ、キガ、アガと話し合ったら、アガが毒を盛っていたことが分かって、みんなでアガを責めたのだ。そうしたら興奮して出て行った挙句、ズガの首を刎ねおったのだ。わしらも、びっくりした」
事の次第をナムチは須佐之男に報告した。
「よくぞ、そこまで事実を調べてくれた。ナムチとか言ったな?今後とも出雲の為働いてくれ」と須佐之男は言ってナムチをねぎらった。
『さあ、これからオロチどもを如何に料理しよう』と須佐之男は思いを馳せると、ズガの顔が浮かび、目が潤むのだった。