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第二十八章 血の濃さ ズガを埋葬した後、須佐之男は、ズガが寂しがるだろうと思って、御室山の磐座のそばで、しばらく篭った。 ズガは正真正銘の唯一無二の実の兄だ。アメというズガと双子の兄はいるが、会ったこともない。 『そうだ、高句麗に行ってみよう、そしてアメに会ってみよう』と数日間磐座のそばで過ごしているうちに、須佐之男はズガから『高句麗に一度戻って李生成やアメと会ってはどうか?』と囁かれているように思ったのだ。 育ての親であるフツのことを考えると、李生成に会おうとは思わなかったが、ズガと双子の兄弟アメなら顔もよく似ているだろうから、ズガと再会出来るような思いになれる筈だ。 『やはり、これもズガ様の導きだ』と思い、御室山を下りた。 そして、清田のオロチの館にフガを訪ねた。 「そうか、ピヨンヤンに行くか。そしてアメに会うのか。フツシは、よほどズガのことを慕っていたのだな・・・」と言いながら考え込んでいたフガの顔に元気がない。 「元気がないが、どうかしたのですか?」と須佐之男が訊くと、フガは真剣な顔をして答えた。 「ズガとお前に約束したのを守るのが、非常に辛いのだ」 フガの顔を見ながら須佐之男は腹を抱えて笑った。 「わたしも酒と女に弱いから、その辛さはよく分かります。親父のフツが李生成に母の日霊女を寝取られ、母の日霊女も李生成と楽しく暮らしていたと聞かされ、そのショックで死んでしまった時、女は怖いと思った。その時、イナダ媛と親しくしていたが、しばらくはイナダ媛を避けていた。そして、抑圧していた想いを発散するため、日向の西都原侵攻をしたのです。しかし、そこで貴巫女と会い、彼女がフツと日霊女が捨てた子だと聞いて、抑圧していた想いが一気に噴出して、姉である貴巫女との間に子までもうけてしまいました」 話を興味津々で聞いていたフガが須佐之男に言った。 「わしは女だったら誰でも抱きたい。だが姉妹にだけは、そんな気にならない。お前はわし以上に女が好きであるのだな!」 「そうではありません。わたしは貴巫女のことを女として好きになったのです。好きになれば抱けばよいではないですか。だから、あなたも好きになった女ができれば抱けばよいのでは・・・」 「それでは、約束を破ることになるではないか」と言うフガに、 「それは約束違反にはなりません。だから好きな女を見つけることです。酒を飲むと理性が働かなくなるから、酒はやめておいた方がいいでしょう」 少し元気が出てきたフガの表情に、また曇りが走った。 「わしが、女を好きになれるかのう。今まで、そんな気持ちで女を抱いたことがない」 須佐之男は不安そうな顔をしているフガの表情を見てズガの顔を思い出した。 『やはり、腹違いの兄弟でも血は繋がっているから、どこかズガの面影がある』と思ったら、フガにも親しみが湧いてきた。 「約束は守らなければなりません。しかし無理やり女を餌食にするようなことさえしなければ約束違反にはならない、そして好きになった女と酒を汲み交わすことはいいことではないでしょうか」と笑って言う須佐之男に、 「ズガもそれは許してくれるかのう?」と嬉しそうに訊く。 須佐之男が頷くとフガは須佐之男の手を握って、 「わしも、今日から変わってみせる」と顔を赤くして言った。 オロチの館を出て、横田のクシの館に向かった須佐之男は呟いた。 『やはり、血の濃さには、逆らえない。敵と思っていたズガやフガの住むオロチの館に真っ先に行くのだから・・・』 クシやイナダ媛に悪いと思いながらクシの館の前に立った須佐之男を、イナダ媛が迎えに出てきてくれた。 「何時になったら、御室山から下りてこられるのかと心配しておりました」と嬉しそうに笑うイナダ媛の表情が無性に愛しく思った須佐之男だった。 『高句麗にすぐ行こうと思っていたが、しばらくはこの館で体の洗濯をしよう』と思った須佐之男は、『自分もフガと余り変わらない』と苦笑した。 |