第三十一章 親子対面

須佐之男は是非ともアメに会いたいと再度ナムチを李生成のところへ差し向けた。
「なかなか頑固な奴だな」と李生成は言いながらも、やはり自分の子だ、その頑固さが男の勲章だと思うと、嬉しいのだ。
「わしも是非とも会ってみたい。わしと会うならアメとも会わせてやろう」
李生成の貫禄に圧倒されたナムチは、李生成の条件を独断で受けた。
死んだズガの部屋を宿舎として与えられていた須佐之男のもとに帰ったナムチは正直に報告した。
「李生成様に面と向かうと、飲み込まれそうな気分になり、つい言われた通りに返事してしまいます。不思議な力をお持ちの方です」
ナムチが二回会った李生成の印象は強烈であったようだ。
須佐之男は小さい時にフツに連れ去られて以来、李生成とは会っていないから、まったく憶えていない。
「親父フツの実の兄だというから、親父の仇として一度会ってやるか」と言いながらナムチに伝え、内心密かに期待するものがあった。
西都原の貴巫女も出雲のオロチ兄弟もみんな、そして須佐之男も結局李生成一族の血が流れているのだ。
李生成は扶余騎馬民族と、三韓のひとつである弁韓の両方の血を引き継いでいる。須佐之男がズガに親しみを感じたのは、自分にも、李生成の血を強く引継いでいるのではと思っていたからだ。フツは確かに育ての親であるが、西都原の貴巫女姉弟を捨てて逃げ、出雲に来て以来のこそこそした振る舞いに、自分の信条に合わない面があると内心感じていた。
ナムチに案内されて李生成の宮殿に入った須佐之男は、アメの寝室に通された。
既に李生成がアメの寝床の傍に座って須佐之男を待っていた。
「フツシか。よく参った。ここに座るがよい」と、自分の傍に座るよう言った。
「アメよ。お前の弟のフツシだ。フツシは死んだズガが出雲で一番信頼していた弟で、日向や阿倭とも親交をつくって須佐之男と呼ばれているぐらい立派な男だ。わざわざ、お前に会いにピョンヤンまでやって来たのだ」と李生成がアメに話すとアメは何とか目を醒まして須佐之男の方に目を向けた。
『もう時間の問題だ』と須佐之男は内心、アメの残り少ない命を察した。
「ズガがそんなに信頼していたフツシか。よく来てくれた。だがわしの命はもう残り少ないから、親父殿にもお願い申しあげたい儀があります。ズガとわしとで親父殿の後を継いで、この半島の国と島の国を統一したいと思っていたが、残念ながらその夢は果たせそうにありません。ズガが死んだとき双子のわしの夢枕に表れて、二人の夢を引継いでくれるのはフツシしかいないと言っておりました。どうか、わしの後はフツシに任せて下されるよう、お願いいたします」
必死にしゃべるアメは、まさにこれが自分の遺言だと言わんばかりの表情だった。
「よくわかっておる。その通りにしよう。フツシよ、何かアメに声をかけてやってくれ」
と言われた須佐之男だったが、アメがズガと瓜ふたつの顔をして、声もしゃべり方もまるでズガ本人そのものだと感じていただけに、初対面とは思えない気持ちになり、感極まって目を潤ませて、何もしゃべれなかった。
須佐之男の心情を察して李生成がアメに言った。
「フツシはお前をまるでズガのように思って泣いておる。気猛ではあるが心根の優しい子だ」と言ってアメの手を強く握った。アメも笑いながら李生成の手を握り返し、目をつぶった。
寝室を出た二人は、李生成の執務室に入った。
「フツシよ、お前はフツと同じようにわしを恨んでおるだろう。わしの犯した罪だからそれも仕方ないことだ。わしから、お前に言うことは何もないが、アメの気持ちだけはわかってやってくれ。我が弟のフツも不憫な奴だ。出雲で眠っているようだが心穏やかに眠れるように弔ってやってくれ」
一言も弁解を言わない李生成に、須佐之男は感動したが、声にはならず、ただ頷いただけだった。