第三十三章 ナムチの忠誠

須佐之男は李生成の判断は正しいと思い、ピョンヤンから出雲への帰路の船の中で心の内をナムチに打ち明けた。
「わしは、出雲から日向に移ろうと思っている。いずれは貴巫子が治める日向が中心になって島の国を統一するだろう。しかし貴巫女は、やはり女だ。国を統一するためには力が必要だが、貴巫女は愛と徳で人間を治めておる。間違ってはおらぬが、それでは多くの人間を纏め上げることは出来ぬ。わしが貴巫女を応援して、島の国の統一をやってみようと決意した」
ナムチは李生成との話しを聞いていて、須佐之男が日向に移り住むだろうと予想はしていた。しかし出雲はまだ完全に落ち着いてはいない。オロチ一族のフガが治めているが、まだしっかりしていないし、他の性悪の兄弟たちが隙を窺っている。
彼らに対抗出来るのは須佐之男しかいない。
「出雲は、フガ様にお任せしておいて大丈夫でしょうか?」と須佐之男の本音を確かめようとナムチは訊いてみた。
「それはフガ次第だ。人はいいが、酒と女に弱いところを他のオロチの連中につけこまれる可能性がある。まあ、帰ったら出雲がどうなっているか見物だ」
すでに出雲の悪名たかい八岐大蛇はズガとアガがこの世にいない六岐大蛇になっている。そしてイガ、ガガ、エガは腑抜けになってしまっているから、問題を起こしそうなのはヤガとキガだけである。この二人の性格がまったく正反対で、陽のヤガに対してキガは陰なのだが、自己防衛のため共同戦線を張っているらしい。
須佐之男は、実質上出雲の八岐大蛇(ヤマタのオロチ)は消滅したと考えていた。
しかし、フガに完全に任せるのも不安であったのでナムチに相談した。
ナムチは非常に物知りで、頭脳明晰、将来を見通す能力の持ち主であることを知っていた須佐之男は、ピョンヤンを発つとき、李生成から助言を受けていた。
「フツシよ、あのナムチという男は実によく出来た家来だ。あれだけの能力がありながら、分をわきまえておる。ナムチも高句麗の出であり、あの男にも他に七人の兄が、このピョンヤンにいることを知ったわしは、さぞかし役に立つ兄弟だろう思って引見した。ところが、これがヤマタのオロチのズガと他の兄たちと同じで性悪だ。それで、隣の因幡(いなば)の国にいる肌の白い美しいヤカミ姫を、誰を選ぶかは姫次第だという条件で、この八人兄弟の誰かに娶らせてやると。と言って彼らを試してやった。結局、姫は誠実なナムチを選んだ。その白い肌のヤカミ姫というのは、わしの守護神の化身であったのだ」
この話を聞いた須佐之男はナムチを自分の後継者にと内心決めていたのだ。
ナムチは自分の考えを初めて須佐之男に披露した。
それを聞いた須佐之男は驚き、今更ながらにナムチの先見性に感心するのだった。