第三十六章 オロチの衣更

いよいよ須佐之男は貴巫女の日向に出発する決心をした。
しかし、やるべきことが一つ残っていた。
ナムチが提案したオロチの衣更をしなければならない。
既にナムチは須佐之男の子として大倭に出向いて6年が経過しており、長髄彦の妹の三炊屋媛(ミカシギヒメ)を娶り、大物主と呼ばれ大倭も大和(オオヤマト)と名を変え、まさに大和の大王になっていた。そして布都の孫、布都斯の子として布留(フル)と自分で命名していた。
『大国主は大和の大王・大物主として立派に大倭の国を治めておる。そして既に三人の子をもうけたようだ。後はわしが日向の貴巫女と連合して出雲・日向を統一すれば、この島の国は一つの国家になれる。それが親父殿・李生成の願いである。死国は、異邦人であるが立派な稲飯殿が治めてくれている。問題はわしがいなくなった後の出雲を治めるヤマタのオロチの衣更が急務になってきた。そろそろフガと会ってみる時が来たようだ』
フガは李生成の跡を継ぐことを既に了解していたが、須佐之男が出雲にいる間は、オロチ一族の頭領として他の兄弟たちを抑えていた。
「いよいよ、日向へ発たれるか。やっと、わしも親父の李生成の元へ帰れる」とフガも喜んだ。
「他のオロチ兄弟はどうするのか?」
「もちろん、高句麗に連れて帰る。文句は言わせない」
フガは自信満々に語った。
「ナムチの七人の兄達も、因幡のヤカミ媛の件で、悪人ぶりを露呈しおったが、さすが李生成だ。ナムチがお前たちヤマタのオロチに従って出雲に発った後、厳しい修行をさせたそうだ。それ以来、李生成もびっくりするほど変身したそうだ。だから彼等を出雲に呼び寄せようと思う」須佐之男の意見にフガも賛成したが、
「七人ではヤマタのオロチにはならぬ。もう一人必要だが、どうするのだ?」と訊ねた。
「もともと、実兄のズガ様が亡くなられたとき、わしがズガ様の跡を継いでヤマタのオロチの第八子となるはずだった。しかし、わしは日向に行かねばならぬ。わしには八人の子がおり、その長子は八島野尊といって、もう九歳になる。だから八島野尊を新しいヤマタのオロチの末子として、将来、この出雲を継がせるつもりでいる」
「それなら、もう思い残すことはない。わしもオロチ達を引き連れて高句麗に帰る準備をしよう」
『これで、後顧の憂いもなくなった』
須佐之男は日向に想いを馳せるのだった。