|
第四十四話 独り旅に出る 郁子が家出から帰ってきた。 雄仁も家出から帰ってきた。 抱き合って喜ぶふたりを暖かく見守るお升は、本当に優しい女性だった。 「いやあ、お升さんは最高だなあ!」 丁稚のたけしが感心している。 郁子は相変わらず丁稚のたけしを警戒しているようで、女の直感が働いているらしく、彼とは口を聞かない。 「郁子さん、この人は誤解されやすいタイプなだけで、根は善人だと、わたしは思うわよ」 お升から言い含められると、郁子も弱い。 「別にわたし、この人を・・・・」 郁子が丁稚のたけしの腕を引っ張って言った。 その様子を見ていた雄仁が狂った。 「死んでやる!」 例の雄仁のお得意のやつである。 お升が雄仁に言い放った。 「かかさまはいないのですよ!しっかりなさい!」 雄仁はお升のことを、崇賢門院と勘違いしていたらしい。 崇賢門院も出家する前までは伸子と呼ばれ、弥仁(いやひと)であった後光厳天皇の后となるまでは、藤原伸子であったからだ。 「わたしは貞子なのよ。かかさまの崇賢門院さまではないのよ!」 言い含めるように、お升は雄仁に言った。 「それじゃ、家出してやる!」 だらし無さでは他の追随を許さない丁稚のたけしも流石に呆れ返ったようで、口調が完全に変わっていた。 「あんだ!いましがた家出からけえっできだばかりでねえか!」 雄仁は、丁稚のたけしから自己矛盾を指摘されたのが余ほど悔しかったらしく、完全に狂った。 「ええい!もう完全に家出してやる!」 家出に完全も何もないのに、人間だけが駄々をこねる動物らしい。 しかも様子を窺って駄々をこねる。 みんな嫌という程、雄仁のゴネ癖を承知しているから、誰も本気に取ってくれないのである。 進退極まった雄仁は、本当に家出せざるを得なくなってしまい、誰よりも一番拍子抜けしたのが雄仁本人だった。 「えええい!本当に家出してやる!」 啖呵を切った以上、本当に家を出るしかない。 雄仁は、遂に自分の意志で行動することになった。 600年の時空を超えた魂も、時代の変化を読むことができなくなっていた。 「もおおおう、どうにでもなれ!」 伝える相手がいなくなった雄仁は、自分に心の内をぶつけるしかなかった。 『いや、やはり最後まで諦めないことが肝要だ!』 これからまったくの独りの道を歩かなければならなくなった彼だったが、それほど重い気分にはならなかったようである。 |