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第五十五話 一気呵成 ハナの様子がおかしい。 囁きだけに、余程の繊細さがないと気づくことは難しいのだが、雄仁の精神はまさに、人を斬った直後の抜き身そのものだった。 『オヒトちゃん!オトウちゃん!オヒトちゃん!』 非常に微妙な違いを感じなければならないのだが、さすがに繊細さに掛けては、まさに九X九の九九の程度ではなくて、十九X十九並みの凄さであった。 九X九ならだぶるのを差し引いても四十五種類の世界であるが、十九X十九の世界は百九十種類という二倍半でなくて四倍プラス十の世界なのである。 この理屈を理解することは、少々の知性では覚束無いのである。 束が無いでは覚えが悪いのであろうか、その抜き身は確かに束が無かった。 『オトウちゃん!オヒトちゃん!オトウちゃん!』 再び、ハナの囁きが聞こえたが、新しい事態が生じた。 雲西が鹿覚になって、若干惹起する模様の様子なのである。 従而、鹿覚が鹿と覚に分断されて、鹿は若草山に引きこもり、そこから若さだけが惹起して覚え束の無さになってしまったのである。 『オヒトちゃん!オヒトちゃん!オヒトちゃん!』 若草が惹起になって、惹起が若草になって、再び若草が惹起になったのである。 『オヒトちゃん!オトウちゃん!オヒトちゃん!』 ハナが遂におかしくなった。 『吾は、石見の刑務所に八百万年服役しせり刀鍛冶なりなり!』 雄仁が中学生の頃の事件だった。 木次一の刀鍛冶であった父親が、布都御魂剣で酔っぱらいを斬り殺した事件が起こった。 『チビちゃん!チチちゃん!チビちゃん!』 中学生の頃、一番忌み嫌っていた言葉を、選りにも選ってハナが囁いているのだ。 しかも惹起が若草になっての暴言である。 「もう朕はいやだ!」 雄仁の六百年の魂が蘇った。 「死んでやる!」 六年前の魂も蘇った。 『刀はどこだ!』 その瞬間、刑事の平野洋介と医者の麻生鎮が突然現れた。 『何だ!これは!』 まさに分裂気味が錯乱気味に変身した瞬間だった。 |