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第三十二章 テレパシー訓練 モスクワ大学は、市内を見下ろせる丘陵地に広大な敷地と、その圧倒的な迫力の建物で、ソヴィエト連邦共和国のエリート養成所として聳えている。 KGB心療訓練所が、このモスクワ大学の大学院研究所の中に、一級のラボを有している。 そこでは、テレパシー研究が行なわれていた。 スパイ活動にテレパシーを駆使したKGBは、CIAを凌駕する諜報機関だ。 モハマッドがイメージしていたスパイでも、また英国のMI6に所属する00エージェントでもなく、科学の粋を集め、洗練されたエージェント養成所だった。 「ここの訓練を受けた多くのカザール人ユダヤ教徒がテルアビブのモサドに入った。それが今や我々共通の敵となってしまった」 モスクワ大学まで一緒に来てくれたアンドロポフが苦虫を噛むような表情をして言った。 「わたしがKGB長官だったら、こんな無様なことはしなかっただろう。ベリアが同じカザール人ユダヤ教徒であることを、フルシチョフは知っていながらKGB長官に任命した。フルシチョフにしても、スターリンにしても、結局スラブ人でないコンプレックスを、スラブ人が最も忌み嫌うカザール人を重用することで解消しようとしたんだ」 フルシチョフ失脚のシナリオを書いた張本人であるアンドロポフの弁解のようにも聞こえたが、モハマッドはアンドロポフの言い分の方が筋が通っているように思えた。 『俺は、そんなことはどうでもいいんだ。早く超一流のテロリストにしてくれればいいんだ!』 そんなモハマッドの気持ちを察したアンドロポフはテレパシーのトップ科学者である、ニジンスキー博士を呼んだ。 「博士、この若者に最高レベルのテレパシー技術を教えてやって欲しい。よろしく頼む」 アンドロポフはそう言ってモスクワ大学からKGBに帰って行った。 「君は、長官に可愛がられているみたいだね。何て名前だ?」 ニジンスキー博士は、モハマッドに質問しながら、手で彼の口を塞いだ。 『どういうことだ?』 モハマッドは最初不審に思った。 しかし、さすがは頭がシャープな彼はすぐに悟った。 そして黙って博士の顔を見つめていた。 「君の名前は、・・・モハマッド・ハッサンだね」 『ふん、何だ!そんな手品まがいの遊びで俺をごまかす気かい!そんなことはアンドロポフから教えてもらったんだろう』 ニヤッと笑ったモハマッドの表情を見た博士はニタッと笑い返して話し続けた。 「トリポリでマンスール・アル・ヒラジと友人の契りを交わしたね。彼はスーフィーのマスターだね」 『マンスールのことは、カスティーヨでさえ知らないことだ!何故?』 さすがのモハマッドも仰天した。 「どうしてそんなことがわかるんですか?」 博士はモハマッドの様子が変化していくのを観察しながら、更に続けた。 モハマッドが必死になって自分の心のコントロールをしようとしていることを察知していたのだ。 「テレパシー技術を身につけたら、嘘発見器にかけられても大丈夫だ。完全に心の動きを制御できるようになる」 博士の話を聞いていたモハマッドは、急に頭を床につけて博士にひざまずいて叫んだ。 「どうか、最高のテレパシー技術を教えてください。お願いします」 モハマッドの様子を見て博士は大声で笑いながら言った。 「モアマール・カダフィーの所にいるマンスール・アル・ヒラジの本名はリンネ・ニジンスキーと言って、わたしの甥だよ」 呆然として聞いていたモハマッドも大声で笑った。 「ますます、博士の生徒になりたくなりました」 その時、ドアーが開く音がして、一人の男が入って来た。 |