第二十五章  アリ・カリファー

アル・ハファイエル・スークでナンバーワンのスーフィーと自他共に認められているのがアリ・カリファーだ。
モアマール・カダフィーがまだ自由将校団の中尉だった頃に、アリ・カリファーとはじめて出逢ったのである。
朝市が開かれる前に、アリ・カリファーの朝の訓話がはじまる。
アリ・カリファーの訓話をはじめて聞いたカダフィー中尉は強烈な衝撃を受けた。
ある朝の訓話をカダフィー大佐は思い出していた。
“国際商業都市ドバイで最大のスーク(市場)のアル・ハファイエルはまるで迷路だ。
店と店との間の境界がなく路もない。
それでいて、それぞれの店がきっちりと成立している。
物理的な空間などスークの店のオーナーたちには不要で、お互い暗黙の了解という心理的な空間がそこにはある。
広大なアフリカのサバンナでグループを成して生活しているライオンたちにも、暗黙の了解という心理的な空間がある。
人間だけが物理的な境界線をつくるから、人間社会だけに差別が生じ、挙句の果てに、無益な殺し合いをする。
それが戦争の実体だ。
差別意識が無益な殺し合い、つまり、「殺し殺され」を起こす。
差別意識の無い世界では、「殺し殺され」など一切なく、あるのは「食う食われる」だけだ。
差別意識と言うように、そもそも差別とは心理的な働きであるのに、それを物理的な働きに変えてしまったのが人間である。
心理的な差別とは、単なる区分けのことだ。
物理的な区分けこそが差別意識の実相だ。
心理的な区分けも物理的な差別も五感の働きから生まれる。
人間だけに五感機能があるのではない。
寧ろ、自然の世界で生きるものたちの方が五感機能は研ぎ澄まされている。
最も弱き生き物であった人間の祖先たちの五感機能は現代人の比ではない。
二本足生活をするようになって、五感機能は急激に退化していったのだ。
五感機能は動体能力と連動している。
つまり、二本足より四本足の方が圧倒的に動体能力は優れている。
一方、二本足は知力(脳力)を生む。
地面から強烈な重力を受けて生きている地上の生きものにとって、頭(脳)の位置の変化は極めて重要だ。
どんな動物でも横になって寝るのは危険予知センサーを外したときだ。
危険予知センサーが機能しているときは立ったままで寝る。
地球の重力の影響下から外れると危険が迫ることを知っているからだが、その代替として知力(脳力)が機能する。
知力が増せば増すほど、地球の庇護は少なくなる。
知力の優れた人間ほど不眠症に陥りやすい所以がここにある。
アメリカという国は病んでいる。
80%を超えるアメリカ人たちが睡眠薬の助けなしでは一睡もできない。
この原因は、地球の庇護を受けていないからだ。
逆に、地球から外敵と思われている。
そんな国はいずれ必ず滅びる・・・”
カダフィー青年にとって新鮮で強烈な話だった。
爾来、反米の先頭を切る戦士になったのである。
“わたしの反米思想は個人的なものではない・・・”
リビアという国が、一青年であったカダフィー大佐によって無血革命を為し得た時の、彼の演説の締め括りの言葉だ。