第四十六章  出会いの妙

村木は、サダト大統領の暗殺指令を出したのが、カダフィー大佐だとは到底思われなかった。
世間、特に、西側社会で喧伝されているカダフィー大佐のイメージと、アラブ社会で伝わっている清廉潔白なイメージとのギャップは余りにも大き過ぎた。
現に、彼の目の前にいる人物は、一国の国家元首とは到底想像できない程の地味な雰囲気を醸し出していた。
「いえ、直接サダト大統領を知己していたわけではありません・・・」
話を続けようとする村木の言葉を遮るように、マンスール・アル・ヒラジが横に入った。
「村木さんは、モハマッド・ハッサンの長い親友なのです」
カダフィー大佐は吃驚もせず肯いていた。
イラン革命が起こった直後にエジプトに脱出した村木は、カイロに拠点を置くべく、事務所を探していた。
中東戦争から心身ともにボロボロになってカイロに帰っていたモハマッドは、父親のオサマの経営する綿花工場を継ぐ気にもなれず、カイロの町に出ては、ブラブラしていた。
そんな頃、サダト大統領の「オープン・ポリシー」が功を奏して、カイロの町は活気を呈していた。
アメリカ系のホテル・チェーンが次々とカイロに進出してきたのである。
それまで、老舗の「ヒルトン」と「シェラトン」しかカイロに進出していなかったのに、「マリオット」が満を持して超豪華ホテルの建設に乗り出したのである。
青ナイルと白ナイルはスーダンの首都ハルツームで合流して、大ナイルとしてカイロまで下る。
カイロの町の中で、再び、二本に分かれて、地中海に流れ出る。
一方が、ポートサイドで、他方がクレオパトラが住んでいたアレキサンドリアだ。
その三角州が有名なナイルデルタと呼ばれる。
カイロの町の中で二本に分かれたナイル川は、ドッキという中州をつくった。「マリオット」がそのドッキに巨大カジノホテルをオープンしたのである。
村木とモハマッドは、そのカジノで運命的な出会いをしたのだ。
モハマッドにカダフィーを引き合わせたラガブとの出会いも、カジノであったように。