第四十七章  奇妙な出会い

真っ白なスーツを着たモハマッドが、村木が宿泊しているホテルの部屋のドアーの前で立っていた。
ドアーを開けた村木の顔を睨みつけている。
「俺は3時間もドアーをノックし続けていたんだ!」
村木は平然とした顔で言う。
「それがどうしたんだ?」
村木の言っている意味が嫌というほど承知しているだけに、モハマッドはそれ以上何も言えない。
あれは1年前の同じホテルのカジノだった。
「お客さん、また26番ですか?」
ルーレットのディーラーがうんざりした顔でモハマッドに訊く。
顔を横に振るだけのモハマッド。
モハマッドが26番に掛け続けて既に100回のベット(勝負)が過ぎていたが、一度も26番に白いボールがヒットしない。
普通なら37回に1回の確率でヒットするはずだ。
1番から36番と0番で計37種類の数字があるわけだから、37回に1回の確率でヒットするのが、ルーレットというバクチだ。
1回当たれば、36倍の配当で返してくれる。
カジノ側が37分の1有利に出来ている。
ルーレットの台の上にヒットした番号が順番に並んでいるが、モハマッドが掛け続けている26の数字だけが一つもない。
モハマッドは持ち金が無くなっていたのだ。
ディーラーが「ニタッ」と笑って、「No more bet!」と言いかけた瞬間、26番のボックスに10000ドルチップを2枚置いた男が言った。
「10000ドルは俺のベットで、もう10000ドルはこの紳士のベットだ!」
モハマッドの方を見て男も「ニタッ」と笑った。
白いボールは既にディーラーの手から離れていた。
ディーラーの顔が真っ青になった。
その直後に、白いボールが黒色の26番のボックスの中にヒットしたのだ。
カジノ中がどよめいた。
モハマッドと男の前に、白地に赤色で「10000」の数字が彫られた1万ドルのチップが36枚ずつ並べられた。
男はモハマッドの配当分から1枚だけ抜いて、その場を立ち去ろうとした。
「ちょっと待ってくれ!」
カジノの出口の前で、男は振りかえってモハマッドに握手した。
「俺は村木兵庫だ」
「俺はモハマッド・ハッサンだ」
二人の奇妙で運命的な出会いだった。