第五十一章  地上最強の生きもの

人間だけが死を怖れている。
死ぬことを知っているからだ。
未だ来ぬ未知のことである未来を知っているからだ。
未知を知っている。
未知を知るということは知性の為せる業だ。
知性を持たない他の生きものが死ぬことを知らない所以だ。
だから、人間だけが死を怖れている。
知性とは五感が齎したものだ。
五感が齎したものはすべて情報である。
情報を情報として処理するのが知性であり、情報を現実として処理するのが感性である。
五感が齎した情報を情報として処理できるのが知性ある生きものの特性であり、五感が齎した情報を現実として処理するのが感性ある生きものの特性である。
人類が地上最強の生きものに成り得たのは、五感が齎した情報を情報として処理できる知性を獲得したからである。
だが、人類のすべてが地上最強の生きものになったわけではない。
大半の人類が今なお地上で最も弱き生きもののままだ。
その原因は、今でも五感が齎した情報を現実として処理しているからである。
猿から、人類に進化したのは一部の猿だけである。
現在でも猿がいるからだ。
猿すべてが人類に進化したなら、猿はもう既にいない筈である。
最も弱き生きものであった人類がすべて地上最強の生きものになったわけでない所以がここにある。
その証明が、大半の人類が今なお五感が齎した情報を現実として処理しているからである。
反社会勢力と揶揄されている、世間の掃溜めに棲息している暴力団は、五感が齎した情報を情報として処理できる知性を獲得した地上最強の人類と言えるかも知れない。
だから、彼らは死を極端に怖れるのだ。
そのエキスパートがモハマッド・ハッサンのような暗殺者である。