第五十五章  女性スパイの巣窟

イスラム一色の世界では、男性と女性の差は歴然としている。
イスラム教だけの世界では、女性の方が男性を凌いでいる。
インドネシアやマレーシアが典型の国だが、それ以外にも隠れた大きな国がある。
それがロシアだ。
今はソビエト連邦という国になっている。
カスピ海から黒海に拡がる中央アジアには、イスラム教徒のロシア人が嘗て大量に生活していた。
十字軍遠征の標的だった地域である。
1095年12月。
トルコ人によって建国されたイスラム王朝のセルジューク朝にアナトリア半島を占領された東ローマ帝国の皇帝アレクシオス一世コムネノスが、フランス人であるローマ教皇ウパニス二世に助けを求めた。
ウパニス二世はクレルモンで教会会議を開催、集まったフランスの騎士たちに向かって、イスラム教徒を殲滅し、イェルサレムを奪回することを命令、以降、500年に亘る十字軍の遠征が始まったが、イェルサレム奪回は飽くまで建前であり、本音は中央アジアに拡がるイスラム教徒の殲滅であった。
カスピ海沿岸一帯で生活していたカザール人もイスラム教徒であったために、ローマ教皇ウパニス二世が送り込んできた十字軍の恐怖に晒されることになる。
旧約聖書をバイブルとする兄弟宗教であったイスラム教とユダヤ教であったが、十字軍の標的は飽くまでイスラム教徒であり、ユダヤ教徒には、キリスト教の発生起源のお陰もあり幾分寛大であった。
キリスト教への改宗を推進する役目も負っていた十字軍の最低限の譲歩が、イスラム教からユダヤ教への改宗であったため、カザール人たちはユダヤ教へ改宗するという折半策を取った。
そのお陰で一命を取り止めることができたが、これまで自分たちの住んできた土地を捨てざるを得なくなった彼らは、カスピ海沿岸から西へと移動して、ロシア西部、ポーランド、そして、ドイツ東部に住みつくようになっていった。
ドイツ語とヘブライ語が混ざったイディッシュ語を喋るユダヤ教徒、つまり、アシュケナジーユダヤの誕生だ。
爾来、ロシアという国はキリスト教徒のスラブ民族を中心とした白ロシア人と、ユダヤ教徒のカザール人とで構成される混合国家運営が、白ロシア人のロマノフ王朝の下で行われることになる。
ヒットラーのナチスドイツで有名になったユダヤ人虐殺だが、その前にロシアではポグロムと呼ばれているユダヤ人大虐殺が繰り返されてきたのだ。
そんな複雑怪奇なロシアという国で、大量の有能女性スパイが生み出され、アメリカとの長い冷戦を展開してきたソビエト連邦時代にも、その伝統は引き継がれていったのである。