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第六十章 哀しい再会 エリザベスはイランで生まれ育ったが、ペルシャ人の血は一滴も引いておらず、トルコ系アルメニア人とイギリス人、つまり、アングロサクソンの混血児として、カスピ海沿岸の町アモールで生まれた。 容姿はまさにブロンドの白人女性そのものである。 村木が若い頃に首都テヘランに駐在していて、月一回のカスピへの仕事旅の中で出逢ったのである。 当時、村木は人生のどん底で喘いでいた。 そんな状況の彼にとっては、日本にいるより外国にいる方が却ってよかったのかもしれない。 人生どんなに苦しくても、“捨てる神あれば拾う神あり”の諺が身に浸みることが必ずある。 人生どんなに辛くても、“身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ”の諺が実感できることが必ずある。 エリザベスと出逢った出来事も、“拾う神”の仕業かもしれなかったし、そんな彼女と淡い恋心だけでおれたのも、“浮かぶ瀬”の浅さを知っていたからかもしれない。 そんなふたりの関係だったからこそ、その後に起こった大事件をふたりは乗り越えることができ、美しい想い出だけを、お互いに胸に秘めて別れることができたのである。 一瞬の中で、村木の脳裏にいろいろな想いが走馬灯のように走り抜けていたのだ。 「村木さん、おひさしぶりです」 声は確かに以前のエリザベスと同じだが、表情がまるで違っていて、険を超えて、殺気が充満している。 彼の危険予知アンテナはモハマッドも尻尾を巻くほどの鋭さを持っているだけに、たとえ、心を許した相手に対しても感度は決して鈍らない。 「どうして、こんなところに・・・」 村木にとっては再会の喜びより、哀しみに似た驚きの方が断然強かっただけに、言葉が詰まってしまったのである。 「ごめんなさい・・・」 と彼女が呟いたような気がした村木だったが、彼女の手にはふたりに照準を合わせた拳銃が、今にも火を噴かんとしていた。 |