第六十八章  再びカイロへ

パレスチナ解放機構、通称、「PLO」のアラファト議長が自爆テロを戦略として使い始めたのは、自爆テロによってイランにおけるアメリカ大使館人質救出作戦を失敗させたことがきっかけになった。
暗殺されたサダト大統領の後を継いだモハマッド・ムバラク・エジプト大統領の仲介で、モハマッド・ハッサンはアラファト議長にヨルダンの首都アンマンで会うことになった。
「村木。君も一緒にアンマンに行くかい?」
北イエーメンの首都サヌアのサムシティーホテルに泊まっていた二人に、カイロから電話が入ったのだ。
二人は武器を購入するために、サヌアから車でホデイダに向かう予定だった。
武器の密輸ルートがあり、イランで製造されたソ連製武器のイミテーションがペルシャ湾の対岸にあるドバイで荷揚げされ、陸路でマスカット・オマーンからホデイダまで運ばれ、ホデイダで闇オークションが開かれるからだ。
ホデイダは港町で、対岸にアフリカ大陸のエチオピアが見える。
旧約聖書の「出エジプト記」で、3500年前にモーゼがイスラエルの民を引き連れて紅海を渡った場所である。
エジプト王ラムセス二世の追撃を受けたモーゼ率いるイスラエルの民の前方には、群青色の紅海が迫っている。
ラムセス二世の軍隊と群青色の紅海に挟み撃ちにされたイスラエルの民は、奴隷にされていたエジプトの地からせっかく栄光の脱出に成功したのも束の間の危機に狼狽えた。
落ち着いていたモーゼは紅海に迫り出した岩の上に立って、天に向かってアロンの杖を突き上げて、主に向かって叫んだ。
「なぜ、わたしに向かって叫ぶのか。イスラエルの人々に命じて出発させなさい。杖を高く上げ、手を海に向かって差し伸べて、海を二つに分けなさい」
そうすると、紅海が真ふたつに割れたのである。
イスラエルの民が紅海を渡って辿り着いた場所がホデイダだ。
村木はモハマッドに言った。
「カイロを脱出したモーゼが海を割って渡ったように、我々も反対の方向に渡ってカイロに向かおう!」