第七十一章  ビジネスの坩堝

ペルシャ湾と紅海がアラビア半島を挟んでいるが、インド洋の延長に変わりないのに、海の色がまったく違う。
ペルシャ湾の色は薄い青空色なのに、紅海は濃い群青色だ。
ペルシャンブルーと言われるようにペルシャの色は青空色だが、アフリカ大陸は暗黒の大陸だ。
陸地の色を海という鏡で映しているようだ。
村木は思った。
『モーゼがもし海を真二つに割って、紅海の底を渡ったなら、さぞかし暗い海だったろうな・・・』
タグボートに乗って30分もしないうちに二人はジプチとアデンとで挟まれているバープ・エル・マンデブ海峡を渡っていた。
『ドバイとバンダールアバスで挟まれているホルムズ海峡のペルシャ湾とまるで同じだ』
イランで生活していた長い間に、村木は何度もバンダールアバスに行ったことがある。
パーレビ王朝時代に石油精製プラント建設プロジェクトを日本の大手商社が受注したが、その現場がバンダールアバスにあったからだ。
イラン革命でこのプロジェクトは頓挫して、受注した日本の大手商社は倒産の危機に追い込まれた。
虚栄と卑小なプライドの塊のような大手商社マンという醜い実体を嫌というほど見せられた事件だった。
『商社マンという連中はまさに男芸者だ。中身は女そのもので、お互い疑心暗鬼なのに、上面は飾りたてている・・・反吐が出る』
海外駐在の大手商社マンの家庭を見てきた村木は、国際人という名の下に日本人の最も醜い面を持つ恥さらし的存在だと思った。
今では「女子アナ」が女性の花形職業になっているが、嘗ては「スチュアーデス」であったように、「大手商社マン」が男性の花形職業としてもてはやされ、女性から憧れられていた時代があった。
芸能界の女性スターたちが大手商社マンに憧れて結婚をしたものの、その醜い実体を知って離婚したケースが山とあるのは当然の帰結だ。
『あの頃は義憤に燃えていたなあ!』
村木はバープ・エル・マンデブ海峡を眺めながら、あの頃のことを懐かしんでいた。