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第七十四章 マンスール中尉 村木の青ざめた表情を見て、モハマッドはリビアの国家元首であるモアマール・カダフィー大佐の付き人をしていたマンスール・アル・ヒラジとの出逢いを思い出した。 「カダフィー閣下。お久しぶりです」 大佐室に通されたガラブは、神妙な態度で礼をした。 「ガラブさん。いつもの調子でお話しましょう。わたしは閣下なんかではありませんから」 モアマールとは、革命前の陸軍少佐の頃からの知り合いで、アブシンベルに潜んでいた時も、ガラブはモアマールに協力をしていた。 しかし、今や国家元首であり、エジプトのエネルギーの供給は彼の国から受けているのだから、無礼な態度は許されない。 「そう言われましても、まわりのお付の方たちの手前、そんな失礼なことは出来ません」 モアマールは笑って、マンスールの方を向いて言った。 「彼は、確かに付き人ですが、わたしの師でもあるのですから、そんな心配はご無用です。それより、隣におられる青年とは初対面ですね」 モアマールはモハマッドの方を向いて笑いながら言った。 『これが砂漠のライオンと言われている人物か』 モハマッドは緊張していたが、逆に、この人物の体全体からかもし出される雰囲気で緊張が和らいでいくのに驚いていた。 「モハマッド・ハッサンと申します」 自分から名乗り出たモハマッドは、横にいる付き人のマンスールの磁力に引き込まれそうな感じを持った。 「モハマッド?ガラブさんと同じ名前ですね。しかもモハマッドとは・・・」 モアマールは顔を上げながら、何か物思いに耽っている様子だった。 「本日、お伺いしたのは・・・」 ガラブが喋り出そうとすると、モアマールはガラブを制して言った。 「エジプトへの石油供給の件でしょう。今まで通りバレル10セントで供給しますよ。心配しないでください。エジプトは我々アラブ諸国を代表して戦ってくれているのですから当然の協力です」 カダフィー国家元首は、革命直後、アメリカのオキシデンタル社と石油公示価格交渉で、バレル1ドル50セントの引き上げに成功した。 その15分の1の価格でいいと言う。 ガラブのミッションは1分も掛からない内に達成された。 「それより、新しいアンアール・サダト大統領はどんな人物ですか?」 訊かれたガラブは、慎重に言葉を選んで答えた。 「エジプト革命の時から、亡きナセル大統領と同じ自由将校団の仲間でした。スーダン人の血が混じっていて、ナセル大統領とはまったく正反対の、温厚な性格の方で、閣下と同じで、争いが大嫌いのようです」 静かに聞いていたリビア国家元首は、モハマッドの方を向いて、「モハマッド・ハッサンさんは、どう思われますか?」と訊ねてきた。 第三次中東戦争に参戦した時のことを思い浮かべ、モハマッドは、『アラーの神などどこにもいない』と感じたこと、それ以来、イスラム教不信に陥ったことなどを話した。 「マンスール中尉と友人になられることを、お薦めしますよ。モハマッドさん」 モハマッドに対しても、丁寧に対応するリビア国家元首に、モハマッドは感激した。 「今後とも、よろしくお願い致します」 マンスールの方から、握手を求めてきた。 モハマッドも微笑ながら、強く握手をして、友人の契りを交わした。 「こんな軍のキャンプですので、大したもてなしも出来ませんが、今晩は楽しい晩餐になるでしょう」 笑いながら、実に穏やかな表情で喋る、国家元首を見て、モハマッドは思った。 『これが狂犬カダフィーと呼ばれている人物の真実の姿なのだ。世間の評判など真に受けていたら、とんでもないことになる。だが、ほとんどの人間が、歪められたマスコミの情報に洗脳されている愚かな大衆なんだ。どうしたら、真実を伝えることが出来るだろう』 直立不動でモハマッドの前に立っていたマンスール中尉は、モハマッドの心中を察知して、「わたしも、そのことを今考えていました。もっとあなたと話をしたいと思っています」とモハマッドに告げた。 「モハマッド!どうしたんだ?」 逆に村木の方がモハマッドのことを気遣っている様子だった。 |