第七十九章  ルクソールとカイロ

砂嵐は丸一日も続かない。
強烈な風が却って彼等の帆船を高速ジェット舟に仕立て上げた。
半日近いハッシシが何時の間にかハムシーンに変わってエジプト領内に入り、ルクソールまで近づいていたのだ。
「カイロに直接入るのは危険だ!」
村木はモハマッドに諌言した。
モハマッドが承知した上での諌言だった。
ルクソールからカイロまでおよそ1000kmあり、大抵のエジプト人はナイル川を下ってカイロに入る。
この間のナイル川流域はすべて砂漠だからである。
「砂漠を1000kmも歩くということかい?」
モハマッドは苦笑しながら村木に訊ねた。
「そんなことを俺は言ってない!」
村木の口調が激しくなった。
「もう一度紅海に出るんだ!」
思いもしなかった村木の提案にさすがのモハマッドも吃驚したが、考えてみれば妙案だとモハマッドも感心するのだった。
「地図には載っていない運河があった筈だが・・・」
エジプト人でも知らない情報を何故日本人が知っているのか、モハマッドは不思議に思ったが、今はそんなことはどうでもよかった。
古代エジプト文明の中心だったルクソールには、ナイル川と紅海を繋ぐ無数の運河が造られていたことは、モハマッドも聞いたことがあった。
「君はナイルデルタを熟知しているんだろう?」
村木の問いかけにモハマッドは肯いた。
モハマッドの父親のオサマ・ハッサンが経営している綿花工場がカイロから50kmほど郊外のナイルデルタの真中にあり、子供の頃からナイルデルタは自分の庭として遊んでいた場所だ。
カイロとルクソールは双子古代都市だった。
カイロのギザにある有名なピラミッドとまったく同じピラミッドがルクソールにもある。
「クフ王のピラミッドがルクソールにもあるらしい・・・」
モハマッドは村木の博識に驚愕した。
「ルクソールにあるクフ王のピラミッドが運河を知る鍵らしい・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
モハマッドは黙って村木の後をついて行った。