第十章(Part 2) 輿(こし)の意味

大徳寺総見院の本堂で信長の坐像を見て感動した雄仁は、信長の墓に参るために総見院の境内に出ようとして渡り廊下を行くと、途中で妙なものが廊下の天井に架けてあるのに気がついた。
「あれは、何ですか?」と訊くと、輿だと言う。
「輿って何ですか?」
「帝が巡幸する際に乗られる台を輿と言うのです」
雄仁は不思議に思った。
「どうして、武将である信長を祀る寺に、帝が乗る輿があるのですか?」
寺の僧たちは誰も知らなかった。疑問にも思っていない。
『彼らは仏門に帰依する身でありながら、寺の由来も知らなければ、仏道の教えの真髄も分かっていない。ただお経を唱えるだけで務めが出来ていると思っている・・・』
雄仁は義憤に燃えて、大声で彼らに言った。
「あなた方は仏門に帰依した方々でしょう?それがこの寺の由来も知らないのですか?」
狂人を見るような目で見られた雄仁は、『こんな人間相手にしても仕方ない!』と思って境内に出ようとしたが、我慢出来ない自分の中の狂気が噴出した。
「この輿の意味を知っている人に会わせてください!」
「ちょっとお待ちください」と言って三人の僧が奥へ走っていった。
しばらくして三人が戻って来た。
「こちらへどうぞ。住職さまがお会いになるそうです」
本堂から渡り廊下を通って奥座敷に入って行くと、茶室のような小さな部屋があり雄仁はその中へ通された。
「あなたですか?輿の由来を知りたいと言われているのは・・・」
六十才をとうに超えている老僧で、体のまわりから薄い黄金色の光が漂っている雰囲気に雄仁は圧倒されそうだった。
「あなたは金閣寺をご覧になったことがおありですか?」
老僧に訊かれた雄仁は思わず「はい!」と答えた。
「あなたは偽っていますね。本当はご覧になったことはない。興味は人一倍おありのようだが・・・」
心の中を見抜かれて声も出せずにいる雄仁。
「金閣寺をまずご覧になることです!」
老僧は言って部屋を出て行った。