第十二章(Part 2) 心を奪われる

総門から唐門を通って行くと、右手に燦然と輝く三重の金閣寺が鏡湖池の前に現れた。
その瞬間、雄仁は立ち止まってしまった。
案内した護衛官はいなくなり、呆然と一人で立っていた雄仁に一人の若い僧がやって来て、「鹿覚和尚の手紙を持って来られた方ですか?」と尋ねた。
「はい、そうです」
雄仁が答えると、
「雲西和尚のところへ案内いたします」
と言って金閣寺の裏側を通って階段を上がって行った。
後ろからついていった雄仁は、金閣寺の後ろ側にある小さな滝に目を奪われて、つい訊ねてしまった。
「あの滝は、由緒あるものですか?」
「あれは銀河泉と言って、天から注がれている滝だと言われています」
そういって金閣寺垣と言われている階段を上がって行った。
金閣寺の裏山にあたる所に辿りつくと小さな池があった。安民沢(あんみんたく)の池と言われ、雨賜沢とも望雲沢とも言われ、その名の通り、雨乞いの場とされ、義満に奪われるまでの西園寺家の鎮守の五輪の石塔が池の中にある。
安民沢を過ぎて少し上がった所に小さな茶室が見えて来た。
「どうぞ、お入りください。雲西和尚がお待ちです」
若い僧は、金閣寺垣を下りて行った。
竹の垣があって、その中に石畳があり、雄仁は足を踏み入れた。
「どうぞ上がってください」
中から太い声が聞こえた。
声を聞いただけで雄仁は震えが出たほど迫力のあるものだった。
勇気を振り絞って、竹で作られた障子を開けたら、座っていても大男だと分かる雲西和尚が鬼のような顔をして待っていた。
「ここは、夕佳亭(せっかてい)と呼ばれる茶室で、一般の人は絶対に入れません」
何か地獄に引きずり込まれたような気分になって雄仁は立ったままでいた。