第十三章(Part 2) 雲西和尚との出会い

「あなたはまだ学生ですな・・・」
雲西和尚は立っている雄仁に座れとも言わずに話しかけた。
金閣寺は鹿苑寺と呼ばれている臨済宗の寺であるからして、雲西は禅宗の僧である。
特に臨済宗は禅定よりも公案を重視する禅宗であるから、皮肉や冗談を言って相手の心の内を外に引っ張り出すところが特徴である。
曹洞宗の場合は只管打坐と言って、只々一心不乱に座禅をする。
鎌倉時代になって武家支配が始まった頃から、禅宗特に臨済宗が武家の保護を受けるようになり、その後の天下の大乱に僧侶が絡んでくる事件が多くなるのである。
室町時代がそのピークに達した時期である。
室町時代を代表する臨済宗の寺が鹿苑寺こと金閣寺なのである。
「はい、そうです」
雄仁は立ったまま答えた。
「信長公に関心がおありだそうで、それはどうしてかな?」
雲西は雄仁に、「座れ!」とまだ言わない。
雄仁は怖くなって、体が動かないのだ。
「歴史の教科書で見た信長の顔と余りにも違うので疑問に思ったのです」
雄仁はまだ立って答えている。
「ほう!どう違うのですかな?」
「教科書の中での信長は、いかにも神経質な癇癪持ちのようで、およそあれだけの大業を為し得た人物の顔とは思えません。ところが大徳寺の信長の坐像は猛々しい表情で、その歴史的業績にぴったりの顔つきをしています」
雲西和尚の質問に釣られて雄仁は少しずつ口が軽くなっていった。
「なるほど・・・。それは若いのに慧眼ですな。まあ、お座りなさい」
雲西和尚は、普通の世間知らずの学生なら礼儀も知らずに勝手に座るのを、雄仁は言われるまで座ることをせず、質問に真摯に答えたことに感じ入ったのだ。
「どこの大学の方ですか?」
「はい。東京大学の文学部です」
「ほう!帝国大学ですか。優秀な方ですな!」
雄仁は大学のことを言われるのが一番嫌だった。
黙っていたら、ますます雲西和尚は乗り気になって、
「東京の方がわざわざ京都に来られたのですかな?」
座って、少し落ち着いた雄仁は深呼吸をしながら答えた。
「僕は京都大学に行きたかったのですが、母がどうしても僕を役人にしたくて・・・」
「なかなか親孝行な青年ですね」
この言葉に雄仁は引っ掛かった。
雲西和尚はその表情を逃さなかった。