第十五章(Part 2) 懺悔

思わぬことから自分の過去の忌まわしい出来事を自ら告白した雄仁は、雲西和尚の信頼を得る結果になってしまった。
金閣寺見たさに京都に来て、信長の坐像を偶然見ることができ、そしてただの金閣寺の一観光客のつもりでいたのが、金閣寺の主人と特別な面談を許される機会を得ることになった雄仁は、運命の糸に操られている自分に気が付き始めていた。
「どうして信長の似顔絵を今見ない方がいいのですか?」
最初は雲西和尚の迫力に圧倒されて、まともな会話も出来なかったが、自分を曝け出すことで腹が座ってしまった雄仁は、特別な茶室にいることで、まるでキリスト教会の懺悔室で牧師に告白をするかのような気分になっていた。
「あなたは将来の日本を背負って立つ帝国大学の学生さんです。そんな方の大事な人生を狂わせる訳にはいきません!」
和尚は一体何を言いたいのか、頭ではさっぱり分からないのだが、胸の奥で『うん、よく分かる』と言っている自分にも気がついていた。
肉体は一つだが、複数の自分が心の中にいることを知った雄仁は、何とも言い難い至福の境地を味わうことが出来たのである。
「僕には、実は・・・・・・」
雄仁は死ぬまで誰にも言うまいと心に決めていた母親のハナとのことを、和尚に話していた。
話しを聞いていた雲西和尚も察しはついていたようで、余り露骨な告白をさせないように気遣ってくれた。
「日本が戦争に負けて、国が退廃してしまった結果、日本人の心まで退廃してしまいました。あなたのような体験は、今のこの国では決して珍しいことではありません。人間というもの、環境が急激に変化すると精神も急変するものです。これは自然の法則ですからおかしいことではありません」
和尚の話しを聞いていて、一人暮らしをし始めてから常に胸につかえていたものが溶けていくことに驚きと喜びを感じた雄仁は、心の中である決心をしていた。