第十七章(Part 2) 歴史の裏表

「僕は京都の大徳寺に行って、織田信長の坐像を見て驚きました。学校の教科書で見た織田信長の顔とまったく似ても似つかぬ顔でした。彼の功績と人となりを照らし合わせたら、どうしても教科書のあの神経質で線の細い顔が信長だとは思えなかったのです。その疑問を大徳寺の信長像は解いてくれました。先生は大徳寺の信長像の存在をご存知ですか?」
雄仁に質問された橿原教授は苦悩に満ちた顔をして答えた。
「知っているよ」
「ご覧になったことはありますか?」
「ああ、あるよ」
「どちらが真実の信長像だと思いますか?」
「それは誰にも断定できない。しかし君の言ってることはよく分かる。教科書の信長像と大徳寺の信長像を見たら、同じ人物だとは到底思えないことは事実だね。秀吉像や家康像はどれを見ても完全に同じではなくてもどこか似通っているところがあるのに、信長に関してはまったく違うことは確かで、そこに何か意図的なものが働いているとしか思えないね」
雄仁は、改めて橿原教授の誠実さを認識した。
白い巨塔と言われ始めた東京大学の教授たちは、日本の最高学府としての誇りが高じて、自己保身に窮々としている先生が多い中で、橿原教授だけは違っていた。
「だから京都に行って歴史の真実を知りたいのです」
「そうか。実は僕も、歴史には裏表がつきものだということは仕方ないと思っていたが、日本の歴史は、それが余りにも極端過ぎるとかねがね思っていた。その理由は一体どこにあるのかをずっと考えてきた。その答えはある程度解ってきたが・・・・」
「何ですか、その理由は?」
体を乗りだして雄仁は教授に聞いた。
「それは、君自身が京都に行くことによって知るべきだろうね」
「それなら、京都に行くことを承知して頂けるのですね?」
橿原教授は微笑ながら頷いた。