第十九章(Part 2) 夜行列車の思い出

急行『銀河』は東京から大阪までの夜行列車で、殆どが二等寝台車だが、二両だけ二等座席車があった。
ディーゼル機関車の車両は12両編成で紺色のいかにも夜行列車の雰囲気がある。
東京駅の12番プラットホームから乗った二人だったが、幸いにも座席車両には殆ど客が乗っていなかった。
お互い向かい合わせに座ってゆっくり話が出来る。
足を伸ばして座ると、二等寝台の三段ベッドより遥かに快適だ。
寝台と言っても長椅子ソファーのようなもので、体の小さい日本人だからいいものの、外国人のような大きな体なら寝返りすら打てない狭さだ。
「先生は、京都には?」
雄仁は何気なく訊いたつもりだった。
「僕の実家は京都なんだよ・・・」
雄仁は吃驚して言葉が出なかった。
「びっくりしたかね?そうだろうね・・・。僕が京都出身だとは、君に言っていなかったからね」
「それじゃ、今でもお家は京都に?」
「そうだよ。両親や兄弟はみんな京都に住んでいるよ。百万遍(ひゃくまんべ)からちょっと北にあがったところに実家がある」
百万遍は京都大学のあるところで、すぐ近くに銀閣寺があるが、雄仁はそのことを知らなかった。
「京都では、僕の実家に泊まろう!」
急に言われて戸惑う雄仁だったが、反面大きな後ろ盾が突然現れたような安心感を持った。
「いいんでしょうか?」
遠慮気味に言ったつもりだったが、教授は笑いながら「良いも、悪いも、僕の家は旅館だからね」と言った。
「はあ?」
狐に摘まれたような気分でいたら、「別に旅館だからと言って宿泊代を取るようなことはしないから、安心したまえ」と言って教授は大笑いした。
雄仁も頭を抱えて笑った。
その時、銀河は横浜駅のプラットホームに入っていった。