第二十章(Part 2) 古都の光と影

横浜駅で十分ほど停車した銀河は次の停車駅の小田原にむかって発車した。
駅弁売りが窓越しに弁当とお茶を売りに来たので、教授は二人分を買ってくれた。
「君はまだ若いから腹が空くだろうし、話しをしていると何か食べたくなるだろうから・・・」
お茶を飲みながら、教授は話し始めた。
「君が言ったように、京都という町は学生には好意的な伝統があることは確かだね。何故か分かるかい?」
雄仁は考えたこともなかったから、「いいえ」と答えた。
「維新の若き志士たちが江戸の幕府を倒すために京の都に集まった。彼等を取り締まる新撰組たちから京の人たちが彼等を守った。池田屋事件、寺田屋事件などが有名だ。青年たちが明治維新を起こして、江戸の幕府を倒した。
それ以来、青年に将来を託する精神が京の町に生まれた。しかしそれは表の理由だ。もちろん純粋にそう思っていたことも確かだ。しかし人間の心というものは複雑だ。大きなエネルギーを発露するときの人間の動機というものは、必ずしも単純なものではなく、いくつかの動機が錯綜しているものだ。人に言えるような動機が表のものだが、必ず人に言えない動機もあって、それが裏の動機として隠れている」
雄仁は教授が何を言わんとしているのかまだ掴めなかった。
「その裏の動機というのは何ですか?」
「僕が京都を離れて東京大学に入ったのは、その裏の理由を知ったからだ」
雄仁は教授の次の話しをじっと待っていたが、教授はお茶を飲みながら窓の外を眺めていた。
「小田原にはどれぐらいで着くのかな?」
急に話しを変えた教授の気持ちを察するほどの大人になっていなかった雄仁は、いらいらしていたが何も言えずに黙ってしまった。
「その理由を知りたいかね?」
教授が口を開くと、
「はい!」と大きな声で返事をした。
「今、ここでその理由を君に話すことはよそう。それは君が京都に行って、自分で発見してみることだ」
「そんな!」
雄仁が喋りかけようとするのを遮って教授は続けた。
「今、ここで君に話しても信じないからだ。自分の肌で感じて初めて人間は信じることが出来るものだよ。人に教えられてもそう簡単には信じられるものではない。却って君の京都に対する想いに水をかけることになるだけだ」
経験が少ないまだ青年だが、頭の回転はさすがに早いだけに、教授の言わんとしていることが何となく理解できた雄仁は笑って言った。
「よく分かりました。自分で探しだしてみます」
その理由を近い将来に知ることによって、世の中をひっくり返すような出来事が起こるとは、その時の二人には想像することも出来なかった。