第二十三章(Part 2) 名門旅館

深草北陵の余りの痛々しさにショックを受けた雄仁は、その帰り道で橿原教授にぽつりと言った。
「天皇家と言うのは、考えようによっては、この国のための人柱のような存在ですね。ある意味ではこれほど気の毒な一族は無いでしょうね」
「あの陵を見て、そう思ったのかい?」
「もちろん、それもありますが。こんな理不尽な国はないですよ、そう思いませんか。今回の戦争だって、天皇は最後まで反対されたのに、軍官僚が我が身の欲得で起こした。そして負けると、天皇が自らマッカーサーのところに頭を下げに行くなんておかしいですよ」
思い込むと、どこまで考えが飛躍するか分からないのが、若さの特徴だと思いながら教授は聞いていた。
「蘇我一族、藤原一族、そして武家。みんな卑劣ですよ。“武士道とは死ぬことと見つけたり”なんていい格好して切腹して見せてきたが、そこまで潔さがあるなら、自分が天下を取ったのなら、天皇家も潰せばいいじゃないですか。なぜ今までの武家は天皇家を取り潰そうと思えば出来たはずなのに、しなかったのですか?権力は握るが責任は取らないなんて卑劣過ぎますよ」
橿原教授も京都の高校に通っている頃は、雄仁と同じような疑問を持っていた。
彼は大阪の風土が好きだった。何事にも率直で、裏表がない。本音で話が出来る大阪人が好きで、本当は大阪大学に行きたかったのだが、京都と東京の矛盾に決着をつけるために敢えて東京大学に入ったのだ。
それだけに雄仁が思うことは、良く理解出来た。
「まあ、そう憤慨しないで。そろそろ僕の実家に着くよ」
路面電車が東大路通りを北に向かって走っていた。
右手に大きな長い塀が見えてきた。
「あれが京都大学だよ!」
東京大学とまったく雰囲気が違う校舎が並ぶ京都大学を見た雄仁は、「東京大学とまるで雰囲気が違いますね」と言った。
「明るいだろう。多分学生気質が大学全体に雰囲気をかもし出しているんだと思う」
「そんなに東京大学と学生気質が違うんでしょうか?」
「まあ、おいおい分かって来るよ」
百万遍の駅を降りたら、すぐに立派な和風の大きな建物が見えた。
「ここが、僕の実家の旅館だ」
正面に「都屋」と書いた看板がかけてあった。