第二十九章(Part 2) 信長に再会

雄仁は大徳寺に直接行って信長の坐像を見たかったのだが、教授に意味の分からない所へ連れて行かれてうんざりしていた。
大徳寺に着いた時は昼をかなり過ぎていた。
大徳寺の大門をくぐって、総見院の信長にいよいよ会えると思うと、元気が出て来る雄仁だった。
「総見院に行く前に、この中に泉仙というおいしい精進料理を食べさせてくれる店があるから、まずそこで腹ごしらえをしよう!」
またまた腰を折られた雄仁は露骨に不快感を示した。
しかし、橿原教授は黙って先を歩いて行った。
『この性格が、いずれ問題を起こすのではないだろうか』
一瞬脳裏を掠めたが、教授も空腹と疲労で考える集中力を失っていた。
脳裏を掠めた想いをもうすこし醸成していたら、世間を驚かすような事件は起きなかったかも知れない。
人間の運命など一瞬の違いでどんでん返しになる。
泉仙で精進料理を食べている間も二人は会話を交わさなかった。
「さあ!それじゃ、待望の総見院に行こうか!」
大きな声で教授は言ったが、白けてしまった雄仁は黙ったままで頷くだけだった。
大門を通った最初の角に能堂があり、そこを右に曲がって行き、突き当たりを左にまた曲がって数十メートルほど行くと、右側に総見院がある。
『やっと来た。それほど経っていないのに、ずいぶん久しい気分だ。やはり自分を呼んでいるんだ!』
門を入って右側の石道から庭を通って行くと、信長の坐像が置いてある本堂がある。
障子が開いていた。
懐かしい信長の坐像が、変わらず迫力のある顔をしてこちらを見ていた。
その瞬間、雄仁の表情が、がらりと変わったのを教授は見逃さなかった。
『これはまさに狂気の顔だ!』
信長の顔をじっと見つめる雄仁の顔は、完全に恍惚状態だった。