第三章(Part 2) 燃える剣

医者の麻生鎮は、刑事の洋介から受け取った刀をじっと眺めていた。
「やはり本人でないと駄目なようですね・・・」
洋介は、麻生鎮が何を言いたいのかまったく理解できなかった。
その表情を見て、麻生鎮は神妙な面持ちで話しだした。
「この剣は、第百代(北朝五代)後円融天皇のものですから、今から六百年ほど前のものです」
ますます分からなくなってしまった洋介は、叫ぶように言った。
「何で、そんな高貴なものを奴は持っていたんですか?」 
「さあ、それはわたしも分かりません。わたしより歴史学者の方に聞かれた方がいいと思います。出来れば皇室の関係ですから宮内庁に行かれた方がいいんでは?あなたは警察の方でしょう。それなら何でも調べられるはずでしょう?」
歴史にまったく関心のない洋介には、何か別世界の出来事のように思えた。
戦後間もない頃の警察官というのは、戦前のイメージがまだ残っていて、怖いものだと一般の人は思っていた。
いわゆる恐持てする人間が警察官になるケースが多く、柔道や剣道といった武道の経験者が警察官になるのがほとんどだった。
洋介もその類で、大学は出たが全く勉強はしていなかったので、歴史などに興味がなかった。
「それでは、彼のところへ行きましょう」
刀を持って麻生鎮は部屋を出て行こうとした。その後を大柄な洋介がのこのこと従いていった。患者の病棟は格子戸がついていてまるで牢獄だ。
しかし雄仁の部屋は格子戸のない普通の個室で、麻生鎮は平気で部屋に入っていった。
「やあ、雄仁(おひと)君、元気かい?さあ、君の刀を持って来たよ」
背中を見せて座っていた雄仁が、その言葉で振り向いた時の顔はまるで天使のような柔和な顔をしていた。
ところが、その剣を見た途端、目の中が燃える火のようにぎらぎらと輝きだしたのだ。
雄仁が麻生鎮からその剣を取ろうとした時、洋介はポケットに忍ばせてあるピストルに咄嗟に手が行った。
雄仁が刀を手にすると、ただの古い剣だったのが急にぎらぎらと燃えるように輝きだしたのだ。
信じられない表情の洋介を見て、麻生鎮は言った。
「どうです、刑事さん。彼が持つと燃える剣に様変わりするでしょう」