第三十二章  義満の生まれ変わり

雄仁の手にあった村正は異様な光を発し、雄仁の顔を映し出していた。
朦朧としていた雄仁が刀を手にした瞬間、顔が引きつった。
「都屋」に戻った二人は、さすが疲れたのか、夕食までの間に風呂に入り、少し眠りを取った。
雄仁は金閣寺から旅館に戻ってくる間も、『オヒト、オヒト』の囁きと対話を交わしていた。
路面電車の中でも、ほぼ失神状態で目を開けて『オヒト』と対話していた。
電車の中の客は不審な目で雄仁を見つめていたが、橿原教授は何とか雄仁の対話の状態を継続させてやりたかったから、一切人目を気にしないように努力していた。
百万遍の駅を降りた時も、雄仁は失神状態だったので、駅のそばのベンチに雄仁を座らせておいて、教授は都屋に戻って二、三人の従業員を連れて雄仁のところへ戻って来た。
「いない!」
教授は叫んだ。
「探すんだ!そんなに遠くには行ってないはずだ」
従業員たちは、辺りをきょろきょろしながら雄仁の姿を追いかけたが、彼は消えてしまっていた。
百万遍の駅のベンチに座っていた雄仁は、後ろに京都大学のキャンパスが広がっているのに興味を引かれ、何かに呼ばれて勝手に立って行った。
『オヒト、オヒト。朕もオヒトだ。あの忌むべき男が、この中にいる。朕と一緒に来るのだ』
大学の構内に入った雄仁は胸の囁きに導かれて、構内にある森の方へ歩いて行った。
森の前に立った雄仁は、中に白装束の、自分と同じ年格好の男性が立っているのに気がついた。
また囁きが始まった。
『朕は怖い。あの男が怖い。だが今はお前が一緒にいるから怖くない』
雄仁は、黙ってその森の中の白装束の男を探してみることにした。
雄仁が一歩進めば一歩退く、一歩退けば一歩近づいて来る。
『オヒトよ。奴が憎き春王だ。奴は朕をどこまでも追いかけて来る。朕が死んでも、王権は奴の手には入らない。そんな簡単に王権を奪われるなら、とうの昔に朕の王権は滅びておる。しかし、今回は朕が奴を追いかける番だ』
囁きはそこで止まった。
雄仁はそこで気がついた。
探しにやって来た教授たちが、やっと雄仁を見つけたのは森の入り口だった。
「一体どうしたんだ?」
教授が訊いても雄仁は答えなかった。
その時、森の中から、一人の学生が出て来た。
雄仁は何か引っかかったので、その学生に聞いてみた。
「すみません。失礼ですが、あなたの名前を教えて頂けませんか?」
その学生が答えた。
その名前を聞いて、みんな仰天した。