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第三十三章 Contemporary Ghost(断ち切れぬ因縁) 「源春雄(はるお)といいます」 足利家は源氏本流を受け継いだ一族である。 源氏は、第五十二代嵯峨天皇がその皇子に源姓を与えたのが始まりで、出羽守と陸奥守の東北を治める国司を朝廷から賜り、そこから東北の蝦夷を征伐する役目を受け、代々征夷大将軍は源氏の役目と決まっていたのである。 源姓を名乗る家は間違いなく源氏の血を引いている。 しかも春雄(はるお)という名だ。 雄仁は、足利義満の王権簒奪事件の歴史をほとんど知らないから、まだピンと来ていなかった。 しかし、橿原教授は、足利義満の幼名が春王と呼ばれ、従兄弟関係にあった後円融天皇の幼名が緒仁(おひと)と呼ばれていたことを知っていた。 春王こと足利義満が若くして征夷大将軍になった日から、天皇の皇太子であった緒仁(おひと)とは従兄弟関係であることを知って、自分も天皇家の血を引いているという思いが強烈にあった。 それが結果として、従兄弟の時世に王権を奪い取る動機になっていたのだ。 従兄弟同士の性格と能力が逆であれば、事件は起こらなかったのだが、後円融は文学を嗜む円満な性格で気が弱いのに対し、義満は十一才で将軍職に就き、並み居る老獪な家来を手玉に取る能力のある若者であった。この違いを、結局二人の悲劇として歴史は片付けた。 歴史は所詮、一握りの人間が自分たちの都合で書いた活字でしかないが、人間の情念は何千年を経ても消えることのない強い想いだ。 そう簡単に片付けることが出来ない。 後円融が死んでから十五年後に義満は、自分の種を受けた二人の子供によって暗殺され、半ば実現していた王権の剥奪は、自分の子によって水泡に帰されてしまったのだ。 結局は、義満も死ぬ間際の悔しさは、後円融と同じであった。 いわば骨肉の争いをした二人が、またしても同時代に出会うという出来事を、橿原教授は単純に偶然とは思えなかった。 『人間の想念の強さが、また二人を出会わせる結果を生んでしまった。これは、やはり必然と考えざるを得ない。それなら、これから一体如何なる必然が待ち受けているのだろうか!』 教授は戦慄した。 |