第四十章  永遠の別れ

烏丸・今出川の駅でハナと雄仁は京都駅行きの電車に乗ろうとした。
「あなたは、ここでいい。お母さん、一人で京都駅から帰れるから」
ハナは雄仁の母親としての意識に戻っていた。
逆に雄仁の方が、仙洞御所での閨事をまだ引きずっていた。
電車に乗ったハナは、手を振っている雄仁の姿をどこまでも見ていたが、胸は張り裂ける思いだった。
母としての想いと、前世の夫への想いが交錯した中で、現実の世に生きていかなければならないというやるせなさのあまり、胸を針で突き刺されたような、鋭利な痛みを感じた。
『もう永遠に会うことはできない・・・』
心の中で三条厳子の前世を持つハナは決心していた。
『大きな傷を負ったまま生まれ変わって来たあの子が、これからどのような人生を送って行ってくれるのか・・・』
後円融天皇の前世を持ったまま別れてしまった雄仁を、我が子として心配するハナが胸の中で呟いた。
京都駅から山陰本線の列車に乗ったハナは、窓の外を見続けていた。
雄仁が都屋旅館に戻ると、教授が心配そうに旅館の前で立っていた。
その横に春雄もいた。
二人の姿を見た雄仁は、『まるで親子みたいだな!』と思ったが、それがその後の三人に起こる悲劇を水晶玉で見ていたことになるとは思いもよらなかった。
「ああ!やっと帰って来たか。お母さんは?」
教授は、普段の状態に戻っていた。
「京都駅まで一人で行けるからと言って、烏丸・今出川で別れました」
御所に行っただけなのに、時間がかかり過ぎていることを春雄も不思議に思っていたので雄仁に訊ねてみた。
「御所に行かれたんでしょう?」
雄仁は一瞬ためらったが、正直に答えた。
「御所に行ったら、侍従の偉い人が、『仙洞御所に行きなさい!』と言うものだから、そちらの方に行ったんだ」
春雄は仙洞御所のことを知らなかった。
「何ですか、その仙洞御所というのは?」
教授は重々知っていたが、そこでは黙っていた。
「天皇が上皇になって御所を出たあと住む所らしい。良く知らないけれど・・・」
555年の時空を超えた出逢いのことを話すべくもなく、春雄は首をかしげるだけだったが、橿原教授にはすべてがわかっていた。