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第四十四章 ふたりの道有 通いの修行僧になった雄仁(おひと)こと円融(えんゆう)は、修行僧のやることと言えば、ほとんどが境内の掃除と水屋の炊事ばかりであったが、金閣寺に居ることだけで楽しくて仕方がなかった。 夜の水仕事を終え、雲西和尚から、夕佳亭で対機説法を受けた後、暇を貰うのが日課だ。 大学へは、その合間を見て授業を受けに行くという、まさに寸暇を惜しんでの往来であった。 下宿している都屋旅館に帰るのは、夜の八時過ぎで、朝出かけるのは六時だった。 見る見るうちに円融が醸し出す雰囲気に変化が出て来たのを、都屋の人たちは気づいていた。 特に春雄は円融の変化に触発され、自分も修行僧になる決意を遂にして、ある朝、円融が金閣寺に出かける後を追いかけて行った。 「円融さん。僕も修行僧になれるように、頼んでくれませんか?お願いします」 円融は、春雄の誠実さと素直さに好感を持っていたから、快く了承した。 「だけど、決めるのは僕じゃなくて雲西和尚だから、その点は了解してください」 二人とも、まだ二十歳の青年で同じ下宿で共同生活しているのに、いまだに敬語を使っていた。 金閣寺に着いた二人は、朝の掃除を済ませ、水仕事も終えてから、雲西和尚の所に行った。 廊下から障子越しに円融が、声をかけた。 「すみません。雲円融ですが、少しお話があってお邪魔しました」 返事がない。 二人は黙って廊下で立っていた。 「入りなさい。二人とも」 二人が顔を見合わせて首をかしげた瞬間、 「喝!」とまた大きな声と共に、「春王殿。お入りなされ。従兄弟の緒仁(おひと)様も、ご一緒に」 二人は恐る恐る障子を開けて部屋の中に入った。 「失礼いたします」 円融が言うと、春雄も頭を下げた。 「春王殿は、今から道有という法名です。雲円融と共に修行され、前世の業を浄化しなされ」 「わたしの名前は春雄で、春王ではないんですが・・・」 正直に言う春雄に、雲西和尚は大きな声で笑いながら頷いた。 雲西和尚から法名を賜り、晴れて鹿苑寺の修行僧となった二人が、下宿先の都屋旅館に戻って来た。 「平岡はんと、源はん、やっと帰ってきなはった。息子の公威の様子がおかしいの」 教授の母の女将が、おろおろしている。 教授の最近の様子がおかしいのは家のものみんなが気づいていた。 源春雄が都屋に下宿し始めた頃から、そして雄仁が金閣寺の修行僧になり名前を平岡円融と変えてから、ますます様子がおかしくなっていった。 「教授がどうかされたのですか?」 円融が聞くと、「なにがなんやらさっぱりわかりまへん。大学を辞めて、あんたはんらと一緒の僧侶になると言ってはるんや!」 女将は、お客さんがいる玄関先でうろたえていた。 周りの者が女将を奥へ連れて行き、円融と春雄が一緒に教授の部屋の前に立った。 「教授。春雄です。今帰って来ました。ちょっと構わないでしょうか?」 「どうぞ」 静かな口調で教授は部屋の中から返事した。 障子を開けて部屋の中に入った二人は仰天した。 教授が丸坊主になって、僧侶の格好をしていた。 「どうしたんですか!その格好は」 春雄が言うと、 「君も今日、道有という法名をもらっただろう。僕も今日、南禅寺に行って出家した。法名は、君と同じ道有だ」 円融は、春雄に対して一瞬嫉妬を感じた。 「偶然ですか?それとも知った上でですか?」 春雄は教授に尋ねた。 「偶然じゃないね。何か糸に引かれた結果の所産だよ。道有という名前の由来を知っているかい?」 教授は春雄に向かって訊いた。 「いえ、知りません」 怒ったような表情で春雄は答えた。 「道有という名は、足利三代将軍義満が嫡男の義持に将軍職を譲って出家した時の法名だよ。今日、僕も南禅寺で正式に出家して賜った法名が道有と聞いて吃驚したんだ」 同じ部屋の中に、かつて同じ歳で従兄弟同士でありながら、憎しみ合った後円融天皇と足利義満が時空の世界を超えて対面した。 しかも二人の足利義満が顔を突き合わせていた。 |