第六章(Part 2) 追憶

刀を返してもらった雄仁は医者の麻生に好感を持った。
危険を敢えて承知で雄仁に刀を返した麻生の狙いは、雄仁がなぜ金閣寺に放火したのか、その動機を知りたかったからであり、そのためには彼の過去の記憶を辿るしか方法はなかったのである。
雄仁に刀を渡して一週間が過ぎた。
最初は興奮していた雄仁だったが、少しずつ気持ちが落ち着きを取り戻してきた頃を見計らって麻生は、大胆にも雄仁の格子のついた病室に一人で入って行った。
「先生、大丈夫ですか?」
洋介が心配そうに訊いた。
「あなたが従いてきた方が余計危険ですよ」
麻生に言われた洋介はふてくされて、それ以上ついていかなかった。
格子戸越しに麻生を見た雄仁の表情から狂気が消えていた。
ドアーの鍵を自分で開けた麻生が雄仁の部屋に入った。
「だいぶん落ち着いたようだね?」
麻生が言うと、雄仁は静かに頷いた。
「今日は、何か僕に?」
恐れる様子もなく、静かな口調で雄仁は口を開いた。
「君の大学や高校の頃のことを訊きたくてやって来たのさ」
笑いながら言う麻生に、少し警戒心を持った雄仁だったが、頭脳の回転の速さはまだあった。
「わたしの記憶を辿って、放火の原因を探り出したいのですね?」
雄仁の鋭い指摘に、麻生は動揺もせずに平然と答えた。
「その通りだよ。君がいくら放火の動機をここで喋っても、君自身も分かっていないことがある。だから君にとっても関心のあることだと思うよ」
麻生も鋭いことを言う。
『この人なら、話できそうだ・・・』
雄仁は思った。
麻生の指導で記憶を追いかけていく共同作業に、雄仁は楽しみを抱くようになっていった。