第二章  悪の男

柴田美奈子は、コンピュータのソフト会社に勤める女性システムエンジニアー。
美沙子とは共立女子大学を一緒に卒業した友達だが、性格は典型的な現代っ子。
大学時代から、控え目な美沙子を強引にひっぱっては男子大学生と一緒に遊ぶ学生生活をしていた。
専攻がコンピュータというわけではなかったが、大学時代の遊び相手の一人が、学生時代からソフト事業を始めていたのを手伝っていたのがきっかけで、そのままその会社に入ってしまったのだ。
ソフト会社は、小さな資本で事業を立ち上げることが出来るので、本格的なIT時代を迎えて、大学時代のアルバイトが本業になるケースや、大学を卒業しても大企業に入社出来ずにあぶれた連中がフリーターになって、乱立するソフト会社でアルバイトするうちに独立していくケースが多くなっていた。
欧米のベンチャービジネスを真似たものだが、根本的に違うのは、欧米のベンチャービジネスをやる連中は、若くしてプロだが、日本ではちょっとコンピュータのことをパソコンでかじっただけで始める連中がほとんどだった。
美奈子の会社も、大学時代に杉本という彼女の遊び相手がベンチャーとして始め、彼が社長をしているのだが、設立して四年を迎えて、疲弊する日本経済の煽りを受けて、危急存亡の状態に陥っていた。
社長と社員以上の関係であった二人だが、事業の調子がいい時は、男の本性が出ないで、関係は良好だった。
ところが事業の落ち込みで最近ギクシャクした関係になっていた。
美沙子も杉本のことは、以前から知っていたが、正直言って嫌いなタイプだった。
嫌いと言うより、信用出来ない男だと思っていて、何度か美奈子に注意をしていたが、こういう男は、悪人の中でも一番卑劣な類であることを、見抜けない女が多い。
女性を利用して、そして弄ぶ。
心の中では、女性を人間だと思わず、「女なんて公衆便所だ、したくなったら、どこでもして、それで終わりだ」と骨の髄まで染みついた考え方をしている。
利用できる間は、羊の皮を被って優しく振舞う。
また最近の女性優位時代の潮流を利用して、女性心理の変化を揺さぶる狡猾さを持っている劣悪な人種である。
それが見抜けず、そんな男に貢いでいくあさはかな女が多い。
美奈子も、うすうす疑問を感じていて、他の男性にちょっかいを出していた。
そのことが杉本に知られてしまい、杉本がもう一人の男を脅迫したのである。
「だから、わたしは何度も美奈ちゃんに注意したでしょう。あんな茶髪にする男なんて、まともな人間じゃないって」
美沙子は腹立たしく言い放った。
「だって、プロスポーツ選手でもみんな茶髪にしてるじゃない」
落ち込んで、泣きべそをかいている美奈子が言った。
「今のプロスポーツ選手なんか、女性ファンをセックスの遊び相手としか見てないから、あんな茶髪にするんじゃないの。そんなことも解らないの?」
美沙子は、そう言いながらも、一人の恋人もいない自分に比べて、複数の男性とつきあっている美奈子のことを羨ましく思っている自分に気がついていた。