第二十六章  久しぶりの実家

ロンドンのママ・辰子から言われた茂樹は、一旦ホテルに三人で戻ったが、母親のことが気になって電話をしてみた。
独り生活をしている母を、いつかは東京に呼んで一緒に住みたいと思っている茂樹だったが、当の母は、生まれ育った仙台から離れたがらない。
以前にも、父が蒸発した直後に、根岸にある家を売却して、他に移ろうと兄弟で母を説得しようとしたが、頑として聞かなかった。
やはり、いつか父が帰ってくるかもしれないという期待が心の片隅にあったのか、茂樹はそれ以上は言わなかった。
茂樹が生まれたのは、広瀬川に近い根岸町というところで、仙台中心の南東にある。
広瀬橋を渡ったところにある仙台南高校を卒業して、東北大学に入った。
杉本耕一は根岸町の南隣にある長町に継母と一緒に仙台南高校を卒業するまで住んでいた。
しかし、東北大学に入学すると、すぐに家を出て、伊達政宗公の墓がある八木山の緑町にある安アパートを借りて、近くの東北大学に通った。
電話に出た,母の保子が泣き声で喋っていたのに気づいた茂樹は、「今から帰るよ」
と言って電話を切った。
その由を美沙子と耕一に伝えると、「耕一さんも、お家に帰られたら?わたしはここで一人で泊まっても大丈夫ですから」
「僕は帰る家なんて無いですよ!」
耕一は、顔を曇らせて言った。
「ごめんなさい。嫌のことを思い出させて」
耕一は笑いながら首を横に振った。
その会話を聞いていた茂樹は、ちょっと不安な気持ちになったが、「まあ、今晩の美沙子さんのボディーガードをお前に任せるよ」と言って無理やり作り笑いをした。
「いいのかい、俺に美沙子さんを任せても?」
二人の会話を聞いていた美沙子は、もちろん冗談であることは重々承知していたが、何か複雑な気持ちになるのだった。
根岸の家までタクシーで十五分ぐらいで着いた茂樹を、母親の保子は家の外まで出て待っていた。
タクシーを降りた茂樹の姿を見た保子は、泣きだしてしまった。
その姿を見て、
『早く結婚をして、東京で一緒に住まなければ』
そう思った茂樹の脳裏に美沙子の顔がよぎった。