第二十七章  思わぬ失言

ホテルユニバースに残った美沙子と耕一は、ホテルのバーで少し飲もうということになった。
「美沙子さんは、弟の耕作のことはよくご存知なのですか?」
耕一から、美奈子のことを聞かれたらどうしようと心配していたことが、茂樹がいなくなったことから現実になった。
茂樹がいてくれたら、こんな時に助け船を出してくれるはずだと思うと、余計、気が重くなるのだった。
「ええ、大学の時から柴田さんと杉本さんは恋人同士で、わたしはその引き立て役でしたから、お互いのことは良く知っていました。だけど大学を卒業して二年、ついこの前に柴田さんがわたしの勤めている銀行にやって来るまで全く会っていなかったものだから、二人のその後がどうなっているのか全然知りませんでした」
美奈子が妊娠していること、そして複数の男性と肉体関係を持っていたことは、どうしても言えなかった。
しかし、美奈子に頼まれて彼女の両親に会ったこと、その時に耕作の経営する会社が火の車になっていることなどを話した結果、美奈子の両親が二人の結婚に反対することになって、美奈子は自分のことを怨んでいることを話した。
「そりゃー、ご両親からすれば、倒産しそうな会社を経営している男のところになんか娘を嫁にやれないですよね」
なんとかごまかし通せそうだと思ってふと気が緩んだ時に、美沙子は口を滑らせてしまった。
「だけど、柴田さんのお腹には、耕作さんの子供が既にいるんです」
「ええ!何ですって!」
耕一は驚きの表情で叫んだ。
耕一の叫び声で、まわりの者の視線が二人の方にいっせいに向いた。
急に二人は、肩を寄せ合うようにして囁いた。
「本当ですか、それは?」
顔を突き合わせるように二人は話した。
美沙子が自分の言ったことの重大さに気がついた時は、もう手遅れだった。
『しまった!』と思った美沙子だったが、もうどうしようもなく黙ってしまった。
「このことは、和田は知っているのですか?」
『しまった!』再び美沙子は思った。
『わたしは、一体どうしたのかしら。お酒が入っているからかしら』
茂樹にも、話してないことを、ぺらぺら喋る自分に驚きながら、突き合わせている耕一の顔を見て、我に帰った。
「もう遅いから、部屋に帰ってゆっくり休んでください」
耕一の方が、美沙子の心を読んでしまったようだった。
「さっき話したこと、明日にでも和田に話しておいた方がいいですよ。僕は知らなかったことにしておきますから。お休みなさい」
耕一は、そう言ってさっさと自分の部屋に入って行った。
『男らしい人だ』
そう思う美沙子は、複雑な気持ちだった。