|
第二十八章 哀れ美奈子 美奈子と杉本耕作は、やはり岩松旅館に泊まっていた。 東京の街金融が仙台の取りたて屋に依頼し、杉本耕作の実家の両親と交渉をしていたのである。 そして美沙子らが岩松旅館から出て来るのを見かけたのは、最終交渉の為に実家に行くところであったのだ。 杉本耕太郎は、長男の耕一を産んだ母と結婚した直後に事業を始め、母親の実家からも多大な資金援助を受け、何とか事業の立ち上げに成功した。 母親側の実家から受けた資金援助は実質贈与の形のものであったから、耕一を産んだ直後の突然の死にも拘らず、母親の実家は耕太郎には返済を要求しなかった。 ところが、耕太郎がすぐに後添えをもらったのを知った実家は憤慨し、返済を要求した。 しかし借用書があるわけではなく、実家は泣き寝入りしてしまい、その後の交流はまったくなくなっていた。 しかし、耕一は自分たちのかわいい孫であったから、陰日向で耕一を見守ってきたし、継母の雪子が、自分が産んだ耕作を余りに偏愛するので、いつかは耕一を引き取るつもりでいた。 大学に入った耕一は、実家の祖父母と相談して、満を持して家を出た。 耕太郎にとっては実の子でありながら、水商売をしていた雪子にそそのかされて、耕一への愛情はほとんど持っていなかった。 バブルが弾けて、東北地方に進出していた半導体メーカーの大企業の工場がどんどん閉鎖していく煽りを受けて,耕太郎の会社も楽ではなかった。 そして耕作に対する資金援助もじり貧になっていく中で、金融機関からの借金の連帯保証人になっていた。 当然、債権者が耕太郎のところへどっと押し寄せて来た。 その中で街金融の取りたて屋はやくざで、耕太郎を脅し続け、他の金融機関よりも先に、耕太郎と交渉することになったのだ。 夜逃げしていた耕作も同席することになったのだが、何を思ったか、耕作は美奈子を仙台まで連れて行ったのだ。 美奈子は、まったくの世間知らずだから、耕作の実家に行くという話しで、舞い上がって付いて来たのだ。 「両親の了解さえ貰えば婚姻届けを出すから、印鑑だけ持って来て欲しい」と言われたのだ。 耕作の実家で、これからどんなことが起こるのかも知らないで美奈子は、耕作と一緒に岩松旅館を出たのだった。 |