第三十二章  サラ金のボス

取り立て屋の事務所は仙台駅前の近くにあった。
仙台駅から南に歩いて十分ぐらいの所に中央警察署がある、その傍で堂々と街金融の看板を出していた。
今や、サラ金業者は立派な金融業者として世に認められた感がする程、日本全国、駅前に堂々と店を構えている。
逆に大手都市銀行が地下に潜ったり、駅前から離れた場所へ追いやられている。
バブル破裂後の不良債権処理が一向に進まず、逆に株安で含み益が急激に減少し、今では含み損になって、体力をどんどん落としてしまっている。
一方、サラ金は堂々と20%以上の金利を掲げてテレビコマーシャルで宣伝して、「余り借り過ぎないようにしましょう」「計画的に借りましょう」等と、まるで偽善者顔負けの、良い子ぶっている。
そして、とうとうサラ金のオーナーが長者番付のトップに踊り出る始末だ。
こんな国は世界どこを探してもない。
それでも、サラ金に借りに行く者が絶えないのは、この国が深刻な病に蝕まれている証拠である。
「なかなか立派な構えの店だな」
耕一が連中の一人に話し掻けると、「いやあ、とんでもねえです」
まるで借りてきた猫のようにおとなしくなってしまっている。
「『何だ、てめえ!』って大きな声で叫んでいたのは、お前さんじゃなかったのか?」
耕一が茶化すように、不気味な笑い顔で言うと、黙って下を向いてしまった。
「こういう奴らは、下の下の人種だ。弱い奴には、平気でむごい事をするくせに、相手が強いとなると、この始末だ。男の風上にもおけない野郎だ。俺はこういう奴を見ると、無性に腹が立ってくる」
顔を真っ赤にした耕一は余ほど腹に据えかねたのか、思わずその男の股座を膝で蹴りあげた。
「パン!」とピストルが発射されたような音がした。
「うんん!」とうずくまってしまったその男に、「お前も、これで女と同じだ。今流行のニューハーフにでも職替えすることだな」
茂樹の方を向いてニタッと笑った耕一を見て、「これからの勝負の前哨戦を既にやっているんだな」
茂樹は思った。
店はすでに閉まっていたが、キャッシングのATM機が置かれている所にドアがあった。
「ここから、どうぞ」
他の連中が、怯えながら言った。
事務所の中に入ると、何とラウンジ・ロンドンのママ徳大寺辰子が一番奥の机に座っていた。
「なんだ、ママじゃないか。何しているんだ、こんなところで?」
茂樹が驚いて言うと、耕一が言った。
「ここのボスというのがママさんなんだろうよ」
茂樹は、まさかと思ったが、辰子の不敵な笑いを見て耕一の言っていることに間違いないと思った。
「さすが修羅場を踏んだ杉本さんだね。良く見抜いたわね」
『俺だけが、見抜いていなかったのか』
大学時代から、水商売のアルバイトをして、それなりにこの世界のことをわかっていたつもりだったが、まだまだひよっこだと茂樹は思った。