第三十八章  所詮、女

「和田さん!女性の方からお電話です!」
美沙子に対抗心を燃やしていた、茂樹の課の女の子が、これ聞こえよがしに大きな声で茂樹に言った。
「大きな声出さなくても聞こえるよ!このブス!」
気の短い茂樹も会社の中ではセルフコントロールしていたが、さすがにこの女には頭に来たのだ。
「ガチャッ」
受話器を机の上に放り投げて、ずかずかと茂樹の前を通り過ぎていった女子社員を睨みつけながら、『こんな女に比べたら、あの女性はずっとましだな』
美沙子のことを、ふっと思い出した茂樹は、電話の相手が美沙子であればと、期待しながら受話器を取った。
「もしもし、和田さん?ロンドンの辰子だけど」
辰子は茂樹のことを、本当の弟のように思っていたから、耕作との間で交わした借用書に、美奈子の父親の柴田勇作が連帯保証していることを伝えた。
「ママ。それはちょっと悪どいやり方じゃないですか!」
茂樹もカッと来て、辰子に食って掛かった。
「こういう商売で生き抜いていこうと思ったら、こんなことまでしないとやっていけないわよ。だけど、あなたの友達の怪物が知ったら、大変なことになるでしょうね」
辰子も耕一のことが気になるらしく茂樹に電話してきたのだ。
「ママのことだから、ただ単純にそんな悪どいことをやったとは思えないけど、それで僕に電話をしてきたんでしょう?」
「まあ、そういうところだけど。だけどあたしはね、あなたやあの怪物は凄く気に入ってんのよ。逆になぜあんな姑息な弟を助けるのか理解出来ないわ」
辰子の話を聞いて、茂樹は思った。
『やはり、女だな。男のことをわかっていない。そんな問題じゃなくて、道理、筋道の問題を言っているのに』
「それで、これから柴田勇作さんのところへ取りたてに行くんですか?」
茂樹が聞いても、辰子は黙っていた。
茂樹の頭脳はスーパーコンピュータも顔負けするくらいシャープだから、すぐに状況判断していた。
「もう既に、取りたて屋が柴田さんの家に行ってるんですね?」
「ええ」
辰子はポツリと言ったが、その言葉に腹をくくった様子がまったく感じられない。
「東京に来ておられるのでしょう?今どこから電話されているんですか?」
茂樹の言葉に観念した辰子は、「あなたの会社の前から電話をしているの」
と静かな口調で言った。
「杉本と一緒に、降りて行きますから、ロビーで待っていてください」と言って受話器を切ろうとしたら、辰子の叫び声が聞こえた。
「もしもし。どうしたんですか?」
茂樹の冷ややかな言葉に、辰子は懇願するように言った。
「あの怪物だけは呼ばないで!あたしもまだ女なんだから」
薄笑いをしながら、茂樹は答えた。
「心配ないですよ。奴は余ほどのことが無い限り切れることはありませんから」
「だって、家のもんを二人も片輪にしたじゃない」
「ママさん。あんなことで奴を怖がっていたら、これから起こると予想されることを聞かれたら卒倒しますよ」
「ピピピ・・・」
辰子が電話を切ったのだ。
茂樹はすぐに耕一に電話をしたら、彼は25階の自分のオフィスにいた。
「多分、松涛の家で今ごろゴタゴタしているんだろうな。だけど美奈子さんが家に帰ると、ことがややこしくなる」
耕一が言うと、「俺が松涛の家に行ってくるよ」茂樹が言った。
「美沙子さんとだろう。まあいいや、ここはお前に任せるよ」
耕一は何か考えている様子だった。
茂樹は、耕一の態度を察知して、『これは急がないと、とんでもないことになる』と思ったら、電話を切っていた。
そして吉祥寺の美沙子の家に電話をした。
『誰もいない。ひょっとしたら・・・』そう思った茂樹は本社事務所の前からタクシーを乗っていた。