第五十四章  女の友情

「長い一日」から一週間が過ぎ、美沙子と茂樹の今どき珍しい本格的プラトニックラブが始まった一方で、怪物こと杉本耕一と美奈子の間にも恋の芽生えが起きていた。
「長い一日」の日の、余りの残忍さにショックを受けた美奈子は、気を失ってしまい、強烈な緊張の連続とで、とうとう体に異変が生じ、流産してしまったのだ。
責任を感じた耕一は、毎日、会社の帰りに美奈子を見舞った。
そもそも耕一の弟・耕作がしでかした不始末であり、美奈子が流産したお腹の子も耕作との間で出来たものであると知って、柴田家に対し申し訳ないことをしたと思っていたのだ。
美奈子が倒れた翌日に、病院を訪れた耕一は、美奈子の両親と会った。
「弟の耕作のお陰で、とんでもない事件に巻き込まれ、また美奈子さんの件も、弟に責任があると知って、なんとお詫びをしていいか・・・・」
耕一は美奈子のベッドの横に座っていた柴田夫妻に深々と頭を下げた。
柴田勇作は、耕一の真摯な態度に深く感激した。
「いえ、あなたは私達家族の命の恩人です。お詫びなんてとんでもない」
勇作は立ち上がって、耕一に頭を下げた。
その光景を見ていた美奈子は感激して、「わああ!」と泣き出してしまった。
母親の幸子が、そんな美奈子を見て驚いた様子で、『この子が、こんな風に感激して泣くなんて』、やはり自分の産んだ子供の微妙な変化を一早く感じ取っていた。
両親が席を外して、病室で二人きりになった時、美奈子は耕一に言った。
「実は流産した子供は耕作さんの子供かどうか判らないんです。馬鹿な女と思われるでしょうが、敢えてあなたには言っておきたかったのです。複数の男性と関係を持っていた時に妊娠をしてしまったのです。昨日の一日の出来事で、何か自分の中に大きな変化が生まれ、周りの人達に大きな迷惑を掛けてしまったのに無責任な発言だと思いますが、何て言ったらいいのか・・・良かったと思っているんです。すみません、言葉足らずで」
黙っていれば済むものを、敢えて勇気を奮って告白した美奈子に、耕一は痛く感動し、「その事は、もう誰にも一生話さなくていいですよ。僕に言ったことで充分だと思います」
耕一は、美奈子さえ良ければ、美奈子の懺悔の半分を自分が引き受けてもいいと思ったのだ。
今までの美奈子なら、耕一の言ったことを深く考えずにいただろうが、今の美奈子は違っていた。
『この人は、わたしの重しを一緒に引き受けてくれたんだわ』
そう思うと、嬉しさの余り、目に涙が溢れてくるのだったが、美奈子は声も出さずに、耕一の目を見つめていた。
その時、二人の間にも恋心が芽生えたのだ。
病室に戻ってきた柴田夫妻が、明るい表情に変わった美奈子を見て驚いたが、母親の幸子は、すぐに事情を察知したようで、耕一に向って微笑ながら軽く会釈した。
奇しくも、長い一日の翌日に、美沙子と美奈子に大きな心の異変が起き、お互いに話したくて仕方がなかった。
その翌日、美沙子は仕事を終えた後、美奈子の病院に行った。
病室のドアを開けると、美奈子が待っていたように、「美沙ちゃん!会いたかったの」
そう言う美奈子の明るい表情が、今までと全く違っていたのを美沙子も感じ取っていた。
「わたしも美奈ちゃんに会いたくて仕方なかったの」
いつも何となく暗い表情を漂わしている美沙子の表情とまるで違うことを、美奈子も感じ取っていた。
しかし、二人とも何故かを言わずに明るく話した。
『今回のような出来事を経験すると、女の間でも本当の友情を感じることが出来るんだ』
二人は心の中で思っていた。