第五十五章  茂樹のプロポーズ

「長い一日」から一ヶ月が過ぎた。
美沙子と茂樹は、ほとんど毎日逢っていたが、ホテルに行くことはあれ以来なかったのに、お互いの想いはどんどん募っていくのだった。
『男性だから我慢できない時もあるはずなのに、悪いことしてるみたい』
美沙子は、ずっとそう思っていたが、ふんぎりがつかない自分に、うんざりするのだった。
そして、美奈子に相談してみたのだ。
「以前のわたしだったら、馬鹿みたい!と言って笑っていたわね。だけど今は、美沙ちゃんの気持ち、何となく解るような気がする。わたしの過去のことをみんな耕一さんに告白したら、何か体と心の中にあったどろどろした垢が綺麗に洗われたみたいで、変な話だけど、またバージンに戻った感じがするの。本当に大事なのは、心の純潔を守ることだわね。今のわたしはそんな気持ち」
美奈子の話を聞いていて、『この子がこんなに変わってしまうなんて。やはり女は男性次第だわ』と美沙子は思うのだった。
「わたしも、正直言って、もうバージンではないわ。だから茂樹さんに抱かれることを怖がっているわけではないんだけど、・・・・」
美沙子が正直な気持ちを美奈子に言った。
「多分、今まで出会った男性を、最初から、心の中で見下ろしていたと思うの、そうじゃない?」
「わたしは美奈ちゃんみたいに男性経験がそんなに豊富じゃないから、よく解らないけど、少なくとも、自分の方から見上げるような、尊敬出来るような男性に、お目にかかったことはないわね」
美奈子は、膝を叩いて、「そうなの、その通りなの。そう!尊敬出来るような男性がいなかったのよね。だから男に抱かれていても、抱かれている気がしなくて、逆に抱いてあげている気持ちだったのよ。だから見下ろしている感じがしていたのね」
二人が、いま心の中で育んでいる男性は、尊敬出来るに値する人間であることで、意見が一致した。
「美沙ちゃんも、気持ちがすっきりしたでしょう?わたしもそう!」
美沙子は、美奈子の言葉に頷いた。
『あとは自然に任せておけばいいわ』
美奈子の松涛の家を出て、タクシーに乗った美沙子は、急に茂樹に逢いたい衝動に駆られた。
茂樹の携帯電話に掛けると、「今こっちから掛けようと思っていたんだ。美奈子さんの家をもう出たのかい?」
茂樹が聞いてきた。
「ええ、今タクシーに乗っているところなの」
茂樹は、ほんのちょっと黙っていたが、「今から、美沙ちゃんの家に伺うつもりだ。家に帰ってご両親に言っておいてくれないかい」
美沙子の胸が急にどきどきしだした。
「美沙ちゃんと結婚することを、許してもらいに行くよ」
茂樹の言葉で、「運転手さん!すみませんが吉祥寺まで行ってくれません」
と言って、タクシーの中で、美沙子は携帯電話を耳につけたまま、目を潤ませていた。
『わたしが、泣くなんて。いつ以来かしら』
ハンカチで目を拭きながら、笑う美沙子だった。