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第五十八章 最近の男女 茂樹と美沙子は、親の了承の下に、同棲生活を始めた。 いつか、仙台の母親を東京に呼んで一緒に生活しようと思っていたので、この際、無理して千葉にマンションを買った。 美沙子は銀行を辞めずに、そのまま勤めに行っていた。 「やはり、結婚するのと、同棲するのでは気分が全然違うなあ」 茂樹は、会社で耕一に洩らした。 不満ではなく、どちらかと言えば満足している様子の茂樹に、耕一は聞いた。 「どう違うんだい?俺には、わからないよ」 耕一は美奈子と一日も早く結婚をしたいと思っていたからだが、茂樹の話を聞いて複雑な気持ちになるのだった。 「すごく気分が楽なんだよ。お互い人間だから、先行き、どんなことが起こるかわからない。それだけに、現在を余計大事にしたいという気持ちになる。結婚すると、先行きが決まって、いや無理やり決められてしまう。何か息が詰まりそうな感じになり、余計プレッシャーが掛かるような気がする。結婚と言っても、結局は、法律上の問題だけで、当人の気持ちとは何も関係ない。法律なんて一部の人間が、彼らの都合で決めたもの。国によって、みんな違う。どこの国でも共通の法律なんてものは、結局、聖書に書かれてある、人間の戒めばかりで、いわゆる現代風に言えば、倫理観や道徳観で、そんなものは、個人の判断によって千差万別だ。要は、人間としてあるべき姿、やってはいけないこと、それさえ守っていれば、法律なんて邪魔になっても、役に立つものなど皆無だよ。嫌いになったら別れたらいい、と言うのではなく、お互い一緒に生活しているのだから、嫌いにならないよう、もっと好きになるようにしよう、という気持ちになるのが、いいんだ。結婚していたら、少々嫌な面があっても我慢しなければいけない、という想いが強くなって、返ってそれが、ますます相手のことを心の底で 嫌いになっていく、そんな気がしてならない。だからマンションを買ったのは失敗だと思っている。賃貸にしておけば身が軽くなるからな」 確かに、茂樹の言うことは、真理の一面を突いている。それだけ世の中が、自己中心の利己主義社会になってしまったからだろう。家庭の中でも、それぞれが自己中心的に生きているのだから、家庭崩壊も当然だ。 耕一の育った家庭が、まさに崩壊したものだったから、茂樹の言っている意味がよくわかった。 頭ではわかっているのだが、心がそれを認めたがらないのだ。 「いや、それは個人の問題だと思う。相手を思いやる気持ちがあるなら、同棲であろうが、結婚であろうが、気持ちには関係ないと思う。ただ、この社会は男性有利な世界である以上、女性は自己保身が強くなる。それを思いやってあげる気持ちを男性が持っているかどうかだ。その証明が結婚というチケットだと、女性は考えているように思う。最近の女性は、下手すれば男性よりも積極的で、男の前を歩いているように見えるが、やはり内心はビクビクしているんだよ。ただ軽薄な男、昔風に言えば、プレイボーイは、男の責任を一切放棄しているんだから楽でいい、弄ぶのが目的なんだから、女性が喜ぶことばかりに腐心する傾向が非常に強い。女性が、スリムな男性が良いと言うと、必死になってバッタみたいになるためにダイエットをする。だから一見、男がひ弱に見える。しかし俺は、そういう奴らを見ていると虫酸が走るんだ。 この前も、トイレで新入社員の奴らが、喋っているんだ。何て言っていると思う?細身の体にセックスアピールを感じると恋人から言われて必死にダイエットしているらしい。その後がいい、ただでやらせて貰っているんだから、相手に合わせりゃいい。風俗に行けば、五万円跳んでいくこと考えたら、これほど安くついて楽でいいものはないから、少々のダイエットなんて大したことない。なんて言っているんだぜ。相手は恋人なんだぜ。俺は頭に血が昇ったよ」 興奮して喋る耕一に、「まさか、お前、会社でもこの前みたいにやり過ぎたんじゃないだろうな?」茂樹は心配になって言った。 「いや、実は、頭にきて、そこにいた新入社員三人の野郎のペニスを斬り落してやった」 茂樹は仰天して、「お前、そんなことしたら今度はただでは済まないぞ」と言った。 「いや、冗談、冗談」 耕一は手を振って否定したが、その顔つきは真剣だった。 『冗談だと言っているが、本当にやりかねないなあ』 茂樹は思った。 |