第六十章  二人の女

現代女性の典型だった美奈子と、一見古風な美沙子の結婚生活が始まった。
奇しくも結婚スタイルは、美奈子は婚姻届けをした上での正式夫婦として、美沙子は同棲で正式の夫婦ではないものであったが、新婦の新鮮さにおいては変わりはなかった。
今まで別の屋根の下で生活してきた二人が、同じ屋根の下で一緒に生活を始めることに、特に女には特別のものがあるのだ。
それまでは、母親の下で、手伝いはして主婦業の何たるかは、ある程度理解していても、やはり母親の庇護の下だから主婦としてのアイデンティティーが無い。
一家の大黒柱は男であっても、家庭を守るのは主婦の責任という気持ちが結婚した女には、本能的に備わっているらしい。
女の方が、結婚した時点で一人立ちした意識が、男より強いのだ。
男の方の姓に変わるというのも、心理的に影響する。
男は結婚しても姓が変わらないから、それまでの生活スタイルの延長線上で考えられる。
しかし、それまでの二十数年間呼ばれていた名前が急に変わるのだから、よほど気持ちの切り替えをしておかないと、少なからずカルチャーショックを受ける。
養子に行った男が、一種独特の捻れた性格になるのは、それだけ男の方が肉体のみならず精神的にも女よりも弱いことを示唆しているようだ。
男が女よりも優っているのは、腕力と知能だけだろう。
しかし、人間社会は過去数千年、腕力と知力が優劣の鍵を握ってきたが故に男性社会を維持してきたのであったが、総合力としては、女の方が男よりも強いことは明白である。
日本においても、結婚しても女性の姓が変わらない時代に入ると、一挙に女性優位の時代にますますなって行く一方、女性にも、結婚して一人立ちした意識が希薄になっていく可能性は強くなるだろう。
男に守られた家庭であっても、実質の主人は女にある。
夫婦生活が長くなればなるほど、それはより顕著になる。
現代の夫婦間に異変が起きている原因の根っこにあるテーマであり、これまではお互いに見て見ぬ振りをして夫婦生活をしてきたが、これからはこの課題が大きく浮き彫りされてくることが予想される。
美沙子と美奈子の二人の女性が、まさにこれからの新しい時代における夫婦の在り方に、何らかの解答を与えるのではないだろうか。
そのことを微妙に感じながら、新しい生活を始めた茂樹と美沙子、耕一と美奈子であった。