第七章  対決

病院から両親に連絡した美奈子は、美沙子の家に泊まると言って何とかごまかした。
翌日、病院を出た美奈子から美沙子の銀行に電話がかかってきた。
「昨夜、美沙ちゃんところに泊まったことになってんの。よろしくね」
それだけ言って電話を切った美奈子のことを、『なんて自己中心の子なのかしら』
美沙子は思ったが、昨夜の事件の時に後悔したことを思い出して、「まあ、あんな子だけど、いつどこでわたしを助けてくれるかもしれないから、絶交するのだけはやめて、繋ぎだけはつけておこう」と打算が働いた。
美奈子は、すぐに婦人科医院に飛びこみ、昨夜のことを説明した上で中絶手術を依頼した。
診察をした医者は美奈子に伝えた。
「もう四ヶ月になろうとしています。中絶手術は無理です」
医者の言葉を聞いて愕然とした美奈子は、「もう、それでは産むしかないのですか?」
と尋ねると、その医者は頷いた。
じっと考え込んでいた美奈子は、「産めない事情でもあるのですか?」と聞かれ、「誰の子供なのかはっきりしないのです」と正直に答えた。
婦人科の医者には、このようなことは日常茶飯事のようで、驚く気配もなく、淡々として、「三ヶ月前頃に、何人の男性と交渉を持たれたのですか?」と聞かれた。
「五人です」
医者はため息をついて、
「五人となると判定は難しいですね。出産した子供の血液型で父親の血液型と整合させることは出来ても、今の状態では母親のあなたが判定するしかないでしょうね。避妊具を使った相手と使っていない相手とがあるのですか?」
美奈子は首を横に振った。
医者はあきれた顔をして、またため息をついた。
「無理すれば手術も出来ないことはないですが、あなたの体を危険に晒すことになるので、医者として責任は取れなくなります」
決断出来なくなった美奈子は、その病院を出た。
結局、美奈子はその夜、一晩考え込んで一睡も出来なかった。
避妊具を使うのが嫌で、どの相手とも危険を承知で性行為をしていた彼女だが、彼女なりに自分の体のリズムを考えて安全な期間を意識していたのだ。
今から考えれば、最も安全な時の相手と、危険を覚悟しての相手とを無意識に区分けしていたことを知った美奈子は、どの相手にも恋愛感情は持っていないと思っていたが、やはり気持ちの上で個人差があることに気がついた。
『ワルで嫌な奴だと思っていたあの男の時が、一番危険を覚悟でしていたんだわ。やはり一番永いつきあいだからかしら』
美奈子は自分の気持ちが解らなくなっていた。
『あいつと明日、対決しないと』
そう思いながらも、また裏腹な感情が湧いてくる自分に戸惑う美奈子だった。