第一章  茂樹の悩み

美沙子が茂樹と同棲生活を始めて五年の歳月が過ぎた。
同棲生活と言っても、親が了解した、実質上は夫婦生活だと言ってよかったから、二人は子供づくりに励んだが、成果なく未だに子供は産まれなかった。
茂樹は、自分の育った環境が一般家庭と違っていたのを気にしていただけに、早く子供をつくって明るい家庭づくりを夢見ていた。
人生思い通りにならないもので、その想いが強ければ強いほど、その通りにならない。
子供が産まれない原因は夫の方にあるケースが多いと聞いていた茂樹は、美沙子に内緒で病院に行って検査をしてもらった。
結果は問題無しだった。
そのことを美沙子にも言えず、悶々としていた茂樹は、耕一に相談した。
耕一と美奈子には、既に二人の子供がいた。
最初は美奈子が、自分の過去のことを気にして、子供をつくることに積極的でなかったが、耕一の説得に負けてからは立て続けに二人の子供を産んだ。
「そうか、お前の方に原因はないのか。それじゃ、美沙子さんに問題があるのか、鸛(こうのとり)がお前達夫婦の同棲生活に怒って子宝を運んで来てくれないのかも知れないなあ」
耕一は笑いながら言ったが、茂樹は真剣にそう思ったらしく、「やっぱり、お前もそう思うか?実は俺もそのことを気にしていたんだ」と告白した。
「ところで、お前ところは、上手くいっているのかい?」
茂樹が耕一に聞くと、嬉しそうに耕一は頷いた。
「そうか、お前のところは順調か。それは良かった」
茂樹は笑顔で言ったが、その表情には羨ましい気持ちがこもっていた。
茂樹の表情を察知した耕一は、「お前のところは上手くいってないのか?」と聞いてみた。
「別に取りたてて問題はないんだが、子供ができたら、銀行を辞めさせて主婦業に専念させられるんだが、子供ができないものだから、今でも共稼ぎしている。それがトラブルの原因になることを心配している」
茂樹や耕一は性格上、家事を手伝うようなタイプではない。
耕一のところは、美奈子が専業主婦だから、妻と母をうまくこなしているが、茂樹のところは妻としての責任がどこまであるのかが、はっきりしない。
ましてや、共稼ぎともなると、銀行だけに帰りも遅くなることが多い。
茂樹が帰っても、まだ美沙子が帰ってない場合が多い。
さすがの茂樹もカッと来る。
原因はわかっているから、茂樹も何とか子供をつくりたいと焦る結果、病院へ検査に行ったのだが、自分に問題はないと聞いて、ますます心の中にジレンマが生じるのだった。