第十六章  卑劣な男と卑しい男

吉永という男はどこまでも卑劣な男である。
重子を利用して茂樹の家庭を揺さぶろうとしたが、美沙子の聡明さと、重子の人情味ある性格が意気投合してしまい、結果的には逆効果を生んでしまった。
しかし、吉永という男の粘着力は蛇のようであった。
ミクアマアンテナ本社の営業部に赤木和夫という調子のいい男がいる。
石原と同じ大阪出身なのだが、途中入社してすぐに専務というNo.2になった石原を妬み、ことあるごとに、石原と茂樹の悪口を言っていたのを聞いた吉永は、赤木に接触した。
赤木和夫。
大阪出身でミクアマアンテナに入社して10年になる。
ミクアマアンテナに入社する以前は、自分の兄の会社を手伝っていたというが、どうも実体が分からない。
自分では、明治大学を卒業していると言うが、体全身からかもし出す雰囲気は、どこから見ても、最高学府まで教育を受けた痕跡が微塵たりとも認められない。
あまりに、自分の悪口を言う赤木に、おとなしい石原もさすがに頭に来たらしく、佐藤社長に訊いてみた。
「佐藤社長は、赤木さんをどういう経緯で採用されたのですか。新卒者として採用されたのではないのですか?」
「大阪営業所を開設する時に、営業をできる人間を新聞で募集したら松阪までやって来たんだ。僕が面接したから、よく憶えている。何か、お兄さんが大きな事業をやっているらしく、そこのNo.2としていたらしいが、息子の代になって骨肉の争いになってはいけないと、早目に自分の方から身を引いたと言っていたなあ。若いのに、なかなか出来た人物だと、その時思ったんだ。僕にも兄貴がいてね、同じ境遇にあったから、気持ちがよくわかったんだ」
石原も、佐藤社長の話を聞いて、赤木を見直した。
「彼は大阪出身なのに、明治大学出身なんですか?」
石原の質問には佐藤社長ははっきりと答えなかった。
「うちのような中堅企業になると、卒業証明書まで要求しないからね。本人の自己申告を信用するしかないんだ」
その口調から、佐藤社長も疑っている気配を感じた石原だったので、それ以上話題にはしなかった。
『疑わしいなあ』
内心そう思ったが、仕事の上で、学歴など何の関係も影響もないから、それほど気にも留めなかった。
石原から茂樹に電話が掛かってきて、吉永と赤木が接触しているから、気をつけるようにと忠告を受けた。
「わざわざ、どうもありがとうございます。石原さんから聞いたことが、僕には一番嬉しいです」
茂樹は感激していた。
「この前は、気を悪くさせて申しわけなかったね」
石原は真摯に、茂樹に謝った。
茂樹は嬉しくて、吉永と赤木という卑劣な男と卑しい男のことを忘れてしまっていた。