第十七章  稚拙な卑しさ

赤木は、大阪からわざわざ東京までやって来た。
「こんにちわ。ミクアマ大阪支店長の赤木です」
事務所に入るなり、大きな声で言った赤木は、茂樹しか面識はなかった。
石原から吉永と赤木が、良からぬことを企んでいると事前に聞かされていた茂樹は、『奴らの方から仕掛けて来たのか!』と内心呟いた。
吉永は、知らぬ振りしてデスクで仕事をしていた。
『チッ!』と腹の中で吐き捨てた茂樹だったが、つくり笑いをして、「ああ、赤木さん。どうしたのですか、今日は?」と訊いてみた。
「ええ、ちょっと東京のお客さんとアポがありましてね。ほんで、仕方なく大阪から来ちゃったんです」
と言いながら、卑しい表情で笑っている。
赤木の喋り方で、茂樹は全身鳥肌を立たせていた。
『大阪弁しか喋れないくせに、東京弁を喋っているつもりなんだ。この馬鹿!』
初めて赤木に会った重子は、浅黒い糞が腐ったような顔色をした赤木が変わった言葉を使うのが、面白くて仕方ないようだった。
「何!何ですか?その『ほんで・・・・来ちゃったんです』というのは!おかしい大阪弁だわ!おかしい!」
けらけら笑ってはしゃいでいる重子のおおらかさに、赤木も初対面なのに怒る気にもなれなかったらしい。
「僕の東京弁へんですか?」
薄ら笑いを浮かべながら、重子に訊く赤木の様子を見ていた茂樹は、『大学を出た人間では到底かもし出せない品の無さだ。それに明治大学を卒業したなら、少なくとも4年は東京に住んでいたはずで、こんなおかしな言葉を決して使わない。大学を卒業していると言っているらしいが絶対に騙りだ!』
内心むかついている茂樹の横で重子がまたまたはしゃいでいる。
「嫌だ!『へんですか?』なんて東京弁無いわ!」
さすがの鈴木京子も体を折って笑いこけている。
これから、同朋になる人間がコケにされているのを見るに見かねて、吉永が間に入って言った。
「大隈さん。鈴木君。ミクアマ本社の赤木支店長さんに失礼じゃないか」
赤木はポカンと口を開けて、「何か失礼なことを僕に言っちゃったんでっか?」と支離滅裂な言葉を喋るので、吉永でさえ苦笑してしまい、重子と京子は、ふきだしてしまって、「わたしトイレに行く!もう我慢出来ない!」と重子まで訳の分からないことを喋り出した。
茂樹ひとりだけが、真面目な表情で構えていた。