第十八章  姑息な男たち

吉永や赤木のような男は、共通の性癖がある。
覗き見趣味があるのだ。
現実に、他人の部屋を覗き見する、余所の夫婦の営みを覗き見するのみならず、他人の心の中まで覗き見したがる、困った連中である。
こういった連中は、極力避けるのが上策であるが、茂樹の立場ではそうもいかない。
あの手、この手と姑息な手段を次から次へと打って来る。
姑の息子がやるような行為だから、姑息と書かれる。
従って、嫁と姑の間にいる、夫であり、息子でもある男の優柔不断な、どっちとも上手くやりたいと思う心根のことを、姑息と言うのである。
吉永と赤木も結局は佐藤社長とも上手くやりたい、石原専務とも上手くやりたい、茂樹とも上手くやりたい、そして徒党を組んだ相手とも上手くやりたい、更に自分自身とも上手くやりたい。
こんなことは到底不可能なことである。
不可能なことを、無い知恵を絞って可能にしようとすると、悪循環に陥って支離滅裂な言動になってしまう。
吉永と赤木の関係は、安物のガラス細工のように、脆い上に、割れ方も高級なものと違い、竹を割った時のように思い切りよく割れずに、未練たらしく、しつこくくっつこうと粘る。
まったく見ていて虫酸が走る気持ちになる連中とは、こういった姑息な連中である。
東京に来た夜、吉永と赤木は神田の一杯飲み屋で、作戦会議をした。
「赤木さん。どうして事務所に来たんですか?」
吉永は不機嫌そうな顔をして赤木に怒りをぶつけた。
「あかんかったかなあ?別に構へんと思ったんやけど・・・」
事務所に来た時は、訳の分からない言葉を喋っていた赤木だが、仲間内となると、恰好を一切構わないから、大阪弁で喋ってくる。
吉永も、もっとスマートな男なら、今日の赤木の態度の豹変で、信頼できない相手と見切ってしまえるのだが、欲も絡んで脳味噌が腐ってしまっているから、正しい判断が出来ない。
「とにかく、石原と和田はけしからん奴っちゃ。大手総合商社にいたからと言って、本社の専務や、子会社の社長にすぐする佐藤もけしからん。わしは許さへんで!」
吉永も重子を使って、茂樹夫婦に楔を打ち込もうとして失敗したから、どっちもどっちなのだが、吉永は赤木を馬鹿にしていた。
「赤木さん。もっと頭を使いましょう。そんな感情的にならずに。ねえ?」
静かな口調で喋る吉永に同調して、赤木も、「そうやなあ」と言ってしきりに頷いていた。
「まあ、一杯どうぞ」
吉永が赤木にビールを注いだ。
「ここは、わしが出張で客を接待すると言うてあるから、なんぼでも食って呑んでや!」
赤木の、この言葉で、吉永の卑しさが出た。
「ああ、そうですか!それならもっと高級な店に行けばよかったなあ」
吉永は、店員を呼んで、「ビール3本、日本酒3本追加してよ」と大きな声で言った。
「まあ、とにかく食って呑んで英気を養いまひょうや」
「ええ、そうしましょう」
結局、ふたりはほとんど作戦の話をせず、飲み食いだけの会合になってしまった。