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第二章 こころのすれ違い 結婚生活も五年を超えるとマンネリに陥ってしまう。 特に、茂樹にしても、耕一にしても多感な青春時代に嫌な思い出が心の傷として残っているから、結婚生活に過大な期待と、想い入れがある。 一方、美沙子も美奈子も東京の中流以上の家庭で、何の不自由も無く育ってきたから、心の傷の痛みに対する思いやりが欠落している。 美奈子は、五年前の一件で、相当痛い経験をしたのが肥やしになっていたが、美沙子の方は、根が臆病なだけに、常にトラブルから避ける生き方をしてきた。 二十四才で茂樹と一緒になり、三十才が間近になっても子供が生まれない焦りは美沙子にもあった。 特に三十才という年齢が気になったのは、子供を産む難しさよりも、女の齢の大きな区切りに対する気持ちの切り替えが出来ないままで、この区切りの歳を迎える不安のようなものが原因であった。 『やっぱり同棲生活という気持ちがどっかの片隅にあり、その不安定感が知らず知らずの内に将来不安の想いに膨れ上がってしまったのが、子供が産まれない原因じゃないかしら』 美沙子も茂樹と同じように悩んでいたのだ。 しかしお互いに、その話題から避けてきたから、今更言えないという気持ちがあった。 『今晩、茂樹さんと話し合ってみよう。思いきり手作り料理をして茂樹さんを喜ばせてあげよう』 銀行をいつもより早く出た美沙子は、秋葉原で山の手線から総武線に乗り換え、千葉市駅に着くと、駅前で、料理の材料を買うことにした。 一方、茂樹は検査結果を知ってますます心が重くなり、知らぬ間に一人で渋谷の飲み屋に吸い込まれるように入っていった。 心のすれ違いが生じるのは、必ずお互いに悩んでいる時のようだ。 一方が悩んでいても、片方がルンルンでいると、ポジティブな想いがネガティブな想いを覆い隠してしまい、結局両方共、ルンルンまで行かないにしても、ネガティブな想いは消え去っていくものなのだ。 ところが、両方とも悩んでいてネガティブな想いでいると、どんなに相手のことを慮っても、結果がすれ違いになり、結局ネガティブな想いだけが増幅してしまうものらしい。 美沙子の方がいつも帰宅が遅いので、今日もそうだろうと思って、善意の積もりで夕食替わりに一杯やって帰れば美沙子も楽だろうと考えた結果のことだった。 美沙子は、いつも自分の帰りの方が遅く、夕食をつくるまで、茂樹を待たせて申し訳ないと思っての今日の行動とが、まったくすれ違いになってしまった。 八時を過ぎても茂樹は帰って来ない。いつもなら七時までには帰っている。 夕食の用意をして、いそいそしながら待っていた美沙子の気持ちが揺らぎ始めた。 『遅くなるなら、必ず電話をしてくるはずなのに。何か事故でもあったのかしら。』 最初は、不安な気持ちで、そう思った美沙子だったが、八時を過ぎても、何の連絡もない。 『こんなことは初めてだわ』 不安に駆られ、玄関のドアを開けてエレベーターホールまで行って、待っていると、エレベーターに乗った茂樹が出て来た。 酒の匂いがした途端、美沙子の表情が暗くなった。 それを察知した茂樹の表情も暗くなって、二人はエレベーターホールでお互いの顔を見ていた。 |