第二十三章  佐藤社長急逝

赤木から茂樹の家に電話が掛かってきた。
「和田さん、さっき、佐藤社長が亡くなられましたで!」
最初は、あの赤木のことだから、悪い冗談をわざわざ言いに電話してきたと思ったが、声は真剣だった。
「ええ!本当ですか?」
横で聞いていた美沙子も、茂樹の叫びにも似た驚きの声で、重大なことが起きたことを悟った。
「へえ、末期の前立腺癌だったようです。石原はんから連絡はないんでっか?」
赤木は、石原と年齢が近いせいもあって、ライバル意識があるようで、茂樹に一番に連絡することによって、自分を売り込んでおこうという魂胆があった。
石原は、余りにも優等生過ぎて、赤木の肌には合わなかったが、茂樹は、苦学生で、仙台ではバーテンのアルバイトもしていたバンカラ学生の雰囲気があって、赤木には親しく感じたらしい。
「いいえ、何の連絡もありません。あとの始末に追われているのじゃないですかね?」
むっとした声で返事した茂樹の胸の内を、赤木は察知していた。
「石原はんも、これからは大変でっせ!」
赤木の言葉を、心の中で茂樹も呟いていた。
「ミクアマアンテナは大丈夫なんですか?赤木さんはミクアマには長いし、営業幹部だから、ある程度わかっているんでしょう?」
しばらく沈黙を保っていた赤木は、声を意識的に下げて茂樹に言った。
「ここだけの話ですがね。メインバンクのしあわせ銀行も、佐藤社長だから資金繰りを支えていたようで、佐藤社長がいなくなったら、手を引くでしょうね」
呆然と聞いていた茂樹は、石原の話を思い出した。
『石原さんは個人保証をしていたはずだ。しあわせ銀行が手を引いたら間違いなくミクアマアンテナは倒産する。そうしたら石原さんも丸裸になる』
受話器を持っている手が自然に汗ばんでいた。
「和田さんは、個人保証しているんでっか?」
赤木は何もかも承知だったのだ。
「いいえ。僕はしていません」
はっきりと答えた茂樹に、胸を撫でおろした様子の赤木が言った。
「やっぱり、僕が見込んだ和田さんや。石原さんはやっていたようでっせ。
石原はんも、これで一巻の終わりや!」
茂樹は黙っていた。
「あと3ヶ月もちまへんで、親会社は。和田さんとこもあきまへんやろな」
茂樹は黙っていたが、赤木が続けた。
「僕にええ案がありまんねん。まあこれからゆっくり様子を見ながら相談しまひょう」
その時、キヤッチホンが鳴った。
『石原さんからだ!』
直感でわかった茂樹は赤木の電話を切った。
「もしもし!」
石原の死人のような声だった。